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薬剤溶出性ステント(DES) drug-eluting stent (DES)
解説
<概要>
経皮的冠動脈インターベンション(以下PCI)により狭窄した冠動脈を拡張して血流を確保する、虚血性心疾患に対する治療法である。従来バルーンを用いて拡張していたが、elastic recoilによる再狭窄が起こるため、拡張可能な小さいメッシュ状のコバルトクロムなどの金属の筒を血管に留置するステント(以下bare metal stent: BMS)という医療器具が開発された。アスピリンとチエノピリジン系抗血小板剤による2種類の抗血小板治療(以下DAPT)を最短で1か月で終えることができるというメリットはあるものの、内膜増殖による再狭窄が課題として残っていた。しかし、過剰な内膜増殖を抑制するための薬剤(抗癌剤や免疫抑制剤など)をステントに塗布することで局所投与が可能となった薬剤溶出性ステント(drug-eluting stent: DES)が開発され、再狭窄率や再治療率が劇的に減少し、急性冠症候群も含めてすべて冠動脈病変のPCIにおいてDESが第一選択となった。
<構成要素>
DESはその構成要素として、1)ステント本体(プラットフォーム)、2)薬剤を溶出させるためのポリマーなどの担体(キャリアー)、3)溶出される薬剤、の3つの要素からなり、異なった特性を持つ構成要素の組み合わせでいくつものDESが本邦でも使用可能となった。
<第1世代世代DES>
第1世代の問題点を解決すべく、新世代DESでは薬剤を徐放するポリマーに生体適合性の改良が加えられ、ステントの材質や厚みとともに安全性が大きく向上した。本邦で生体適合性の高いポリマーを使用した第2世代DESであるエベロリムス溶出性ステント(EES)は2010年から使用されている。BMSと比べて中~長期の死亡率や心筋梗塞発症率に差はないが、亜急性~遅発性のステント血栓症は有意に少なく、またVLSTについてはBMSと同等以下である。
<第3世代DES>
第3世代DESは生体吸収性ポリマーを使用し、一定期間に薬剤の徐放とポリマーの生体吸収を終えた後はBMSと同様となる。2015年以降、ストラットが薄く生体吸収性ポリマーを使用した第3世代DESが登場している。薬剤はゾタロリムス、バイオリムスA9、エベロリムス、シロリムスが用いられる。これら新世代のDESの登場によって、これまで高い再狭窄率が問題となっていた、び漫性病変、多枝病変、小血管、CTO病変、ステント内再狭窄病変などに対する再狭窄低減効果(全体的にみても再狭窄率は10%以下)が報告されたことにより、PCIの適応は従来、治療困難あるいは禁忌とされていた左冠動脈主管部病変へとさらに広がってきている。ステント留置後DAPTによる抗血小板療法の期間は、急性冠症候群について3~12か月、安定冠動脈疾患について1~3か月間とかなり短縮しており良好な成績を収めている。
参考文献
1) 安定冠動脈疾患の血行再建ガイドライン(2018 年改訂版)
2) 2020 年 JCS ガイドライン フォーカスアップデート版 冠動脈疾患患者における抗血栓療法