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  • クリオプレシピテート cryoprecipitate

    2015/02/17 作成

    解説

    【概要】
     クリオプレシピテートは新鮮凍結血漿(FFP)を1~6℃で緩徐に融解し、遠心分離にて上清部分を取り除いた沈殿分画で、フィブリノゲン、凝固第VIII因子フォン・ヴィレブランド因子(VWF)、凝固第XIII因子、フィブロネクチン、血小板マイクロパーティクルを多く含有する。この沈殿分画を少量の血漿にて再浮遊して凍結保存したものがクリオプレシピテート製剤で、必要時に融解して使用する。使用の際にはABO血液型を一致させる必要があるが、交差混合試験(クロスミキシング試験)は不要である。
     FFP450mlより作成したクリオプレシピテート製剤に含まれる凝固因子量は、献血供血者の個人差によって異なるが、フィブリノゲンは0.6~0.8g程度である。


    【適応】

     以前は主に血友病Aやフォン・ヴィレブランド病(VWD)の止血治療に使用されたが、濃縮凝固第VIII因子製剤の開発後は使用されなくなった。フィブリノゲンや凝固第XIII因子についても、現在それぞれの濃縮製剤が販売されており、各因子の純度や含有量、輸血関連副作用、そして病原体除去の観点から考えれば、これらの因子の補充にも濃縮製剤を使用する方が望ましい。
     しかしながら、本邦ではフィブリノゲン製剤の適応が先天性のフィブリノゲン欠乏症に限定されており、外傷や産科疾患における大量出血による希釈性凝固障害・低フィブリノゲン血症には使用できない。このような場合、現状ではFFPが使用されるが、濃度の薄いためにフィブリノゲンを急速に補充することができない上、Naの含有量が多いために心不全を助長するおそれもある。クリオプレシピテート製剤はFFPよりも効率的にフィブリノゲンの補充が可能であり、クリオプレシピテート製剤の供給体制が確立している欧米では、クリオプレシピテート製剤を用いた希釈性凝固障害に対する止血治療の報告が散見される。投与の目安は、フィブリノゲン量が100mg/dl未満へ減少した場合とする報告が多いが、出血の速度が速い場合には150~200mg/dlでも適応とする報告もある。


    【本邦の使用状況】

     現在、本邦ではクリオプレシピテート製剤の供給体制はないが、一部の病院では院内で作成したクリオプレシピテート製剤を用いた治療が行われている。ただし、クリオプレシピテート製剤の作成・保存には大型の冷却遠心器や超低温フリーザーなどを必要とするため、使用可能な施設は限定的である。
     また、クリオプレシピテートを分離したFFPはクリオスーパーネイタント(クリオ上清)と呼ばれる。クリオ上清は上記クリオプレシピテートに含有される因子は減少しているが、その他の成分は減少していないため、FFPの代わりにワルファリンによる凝固第II、VII、IX、X因子減少や、後天性血栓性血小板減少性紫斑病(後天性TTP)あるいは非定型溶血性尿毒症症候群に対する血漿交換に使用することも可能である。しかし、我が国においてはクリオプレシピテートを作成している施設自体が限られているため、クリオ上清のみを収集して特定の疾患・病態の治療に活用されているわけではない。
     現状では、クリオプレシピテート製剤の作成条件や保存期間、クリオ上清の取り扱いなどには各施設によって異なり、一定の取り決めはない。適応基準や使用方法なども国内外共に十分なエビデンスが蓄積されているとは言い難く、今後の検討が待たれる。

    参考文献

    1) Nascimento B, Goodnough LT, Levy JH: Cryoprecipitate therapy. Br J Anaesth. Jun 27, 2014.