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PAI-1測定法
解説
基準値<30 ng/ml
詳細は各キットの添付文書を参照すること
測定法・測定原理
血中のプラスミノゲンアクチベータインヒビター1(PAI-1)は、ビトロネクチンと結合して組織型プラスミノゲンアクチベータ(tPA)および ウロキナーゼ型プラスミノゲンアクチベータ(uPA)を阻害する活性型、活性のない潜在型およびtPA・PAI-1複合体として存在し、これらを合わせたものをトータルPAI-1と呼ぶ。
PAI-1には抗原量測定と活性測定の2種類がある。抗原量測定法には、PAI-1に対する抗体を用いた酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)およびラテックス凝集法がある。活性測定法には、反応プレートにtPAを固相化しておき、tPAに結合するPAI-1量を抗原抗体反応で検出することで活性を測定するELISA法がある。また、PAI-1がtPAと結合することでプラスミンの生成量が低下する特徴を利用し、PAI-1によるtPAを介したプラスミンの阻害活性を測定することで活性を検出する合成基質法がある。
なお、tPAとPAI-1の複合体である組織型プラスミノゲンアクチベータ・プラスミノゲンアクチベータインヒビター 1 複合 体(tPAI-C)の測定法として化学発光酵素免疫測定法も存在する。
異常値を示す病態とそのメカニズム
PAI-1は急性期反応性タンパクであり、腫瘍壊死因子α(TNF-α)、インターロイキン1(IL-1)などのサイトカインにより産生が増加するため、敗血症(敗血症による播種性血管内凝固)、血管内皮細胞傷害、悪性腫瘍、手術、外傷で異常高値となる。また、PAI-1は血管内皮細胞や脂肪細胞で産生され、アンジオテンシンII、(プロ)インスリン、グルコース、トリグリセライド等の刺激で産生が増加するため、肥満、高脂血症、糖尿病、高血圧でも高値となる。喫煙やストレスでも高値となる可能性がある。
異常値に遭遇した際の対応
過度の静脈駆血により血管内皮細胞が刺激された場合や遠心条件により血小板が血漿中に多く残存した場合等で異常高値となるため、これらの条件をチェックする。また、同一患者であっても午前中に高値となるため、日内変動に留意する。プラスミンの産生量は、血中のPAI-1量と反比例する。そのため、PAI-1高値の場合、線溶能が低下し、フィブリノゲンあるいはフィブリン分解産物の産生量が抑制される。
その他のポイント・お役立ち情報
健常人ではPAI-1の90%以上が血小板中に含有されており、血小板の活性化により血漿中に放出される。抗血小板剤の種類に関係なく、その服用により血漿中PAI-1濃度が低下傾向を示す。また、アスピリンの増量もしくは併用開始により一過性に血漿中PAI-1濃度が高値となるが、その機序は不明である。男性の血漿中PAI-1濃度は、内頚動脈の肥厚とも関連する。加齢変動があり、男性40代、女性70代以降低下する。30代から70代まで性差があり、男性で高値となる。一般住民でのPAI-1値は、非正規分布を示し、高値側にシフトする。基準値幅が広く、基準値から正常・異常の判断が困難となる場合がある。その場合、個人レベルで経日変化を観察することが必要である。PAI-1遺伝子の発現調節領域の4G/5G遺伝子多型で4G/4Gの場合は高くなる傾向があり、敗血症では4Gホモ患者においてPAI-1の血中濃度が高く予後不良であることが報告されている。PAI-1はアディポカイン(脂肪由来のサイトカイン)の一つであり、血漿PAI-1濃度は内臓脂肪量と相関する。血液中では、PAI-1がtPAより多く存在するため、tPA-PAI-1複合体の増加は、tPAの増加を意味する。
参考文献
参考文献
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