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  • 血管内線溶 intravascular fibrinolysis

    2015/02/17 作成

    解説

    【概要】 
     線維素(フィブリン)溶解(線溶)は、凝固により生じた不溶性のフィブリンを可溶性のフィブリン分解産物(
    FDP)
    に分解する反応で、血管あるいは組織傷害時に形成された止血血栓を組織修復後に溶解・除去する機構である。線溶系は、プラスミノゲンアクチベータ(plasminogen activator, PA)がプラスミノゲンを活性化する段階と、生じたプラスミンがフィブリンを分解する段階に大別できる。線溶系は血管外の組織においても生理機能を発現し、炎症、血管新生、腫瘍増殖等の病態生理に関わる。血管内線溶という用語は、血管外の機能と区別し、血管内での線維素(フィブリン)溶解を意味する。


    【機構】

     線溶系は、酵素前駆体であるプラスミノゲンをPAがプラスミンに活性化する事により開始する。血管内線溶では、血管内皮細胞から分泌される組織型プラスミノゲンアクチベータ(tPA)が主役となり、Arg561-Val562ペプチド結合を加水分解してプラスミンに活性化する。プラスミンは不溶性のフィブリンを可溶性のFDPに分解する。活性化凝固第XIII因子(FXIIIa)によりγ鎖のC末端部分(Dドメイン)が架橋した安定化フィブリンが分解されるとE分画のほかに、架橋D分画(DD:Dダイマー)であるDD,DD/Eとそのポリマーが生じる。血中Dダイマーの増加は,生体内で生じた血栓(安定化フィブリン)が溶解した結果を示す。従って線溶のマーカーであると同時に,生体内で血栓が生じたことを示すマーカーでもある。
     tPAは活性型酵素として血管内皮細胞から分泌される。分泌後重鎖依存性に細胞膜上に留まり、血管内皮上の高い線溶活性の維持に寄与する。tPAの特異インヒビターであるplasminogen activator inhibitor-1(PAI-1)は、細胞膜上のtPAとも高分子複合体を形成して不活性化し内皮細胞上から引き剥がす。従って、血漿中および血管内皮細胞上のPA活性は、tPAとPAI-1濃度により規定される事になる。血漿中PAI-1濃度が増加するメタボリック症候群、炎症、感染時には血管内および血管内皮細胞上の線溶活性は低下し、易血栓性となる。

     生体内には止血血栓の早期溶解を防ぎ、不要あるいは過剰血栓を迅速に溶解する機構がある(「凝固に伴う線溶促進」参照)。FXIIIaはフィブリン間だけでなくα2アンチプラスミンもフィブリンへ架橋し、線溶抵抗性の安定止血血栓を形成する。溶解の増幅に不可欠なC末端リジンを特異的に切除して線溶を阻害するthrombin activatable fibrinolysis inhibitor(TAFI)も、線溶抵抗性に寄与すると考えられる。


    【病態との関わり】

     血栓溶解薬の投与による血栓溶解療法は、血管内治療が優先される急性心筋梗塞では用いられなくなったが、急性脳梗塞では第1選択である。発症後4時間半以内のtPA製剤の投与が必要となる。

    参考文献

    1) 浦野哲盟等:血栓形成と凝固線溶,メディカル・サイエンス・インターナショナル,2013.