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  • 術後のDVT予防法

    2015/02/17 作成

    解説

     外科周術期には静脈血栓塞栓症(VTE)が発生しやすく、VTEを発症させないためには深部静脈血栓症(DVT)予防が必須である。

     DVT予防は、DVT発症危険因子に基づき、リスク分類し、そのリスクに応じた予防を行うことが大原則である。本邦では2004年にVTE予防ガイドラインが発刊されて一般外科・整形外科・産婦人科など各科に応じたリスク分類が呈示された1)。循環器病学会も同年に予防のみではなく、診断・治療に関するガイドラインを作成しており、2007年から新規抗凝固薬の保険収載に伴い改訂している2)。また整形外科も2008年にガイドラインを発行している3)。表にリスクに応じたVTE予防法を示す。予防法で大切なことは有害事象(特に出血)とのバランスをとることである。あくまで予防であるので合併症を起こしてはならない。

     VTE予防は血栓形成の病態を示したVirchowの3徴の①血流のうっ滞、②血管内皮細胞障害、③過凝固状態のうち、①血流のうっ滞と③過凝固状態を防止することにより行われる。血流のうっ滞を防止するものとしては、理学的療法とよばれるもので、早期離床・歩行や足関節の運動、弾性ストッキング(ES)着用、間歇的空気圧迫法(IPC)がある。過凝固状態を防止するものは薬物的予防法とよばれるもので低用量未分画ヘパリン(LDUH)、用量調節未分画ヘパリン、用量調節ワルファリンがある。2007年度から、整形外科より始まり、腹部一般外科症例の術後に低分子量ヘパリン(エノキサパリン)、Xa阻害薬(フォンダパリヌクス)の使用が認可された。経口活性化凝固第X因子阻害薬(Xa阻害薬)のエドキサバンは、2011年に膝関節全置換術、股関節全置換術、股関節骨折術におけるVTE予防薬として認可された。

     早期歩行・下肢の運動は、積極的に下腿を動かすことにより、ふくらはぎの筋ポンプ機能を働かせ、血流のうっ滞を取り除く方法である。弾性ストッキングは下腿を足首から大腿にかけて勾配をつけて圧迫することにより、皮下静脈の血流を深部静脈へと流し、静脈うっ滞を減少させる。薬物的予防法やIPCにくらべ安価で合併症の少ない予防方法であるが、高リスク以上の症例での単独使用での予防効果は明らかではない4)。IPCは空気で下肢を圧迫する器械をつけ下腿~大腿のマッサージを行い、深部静脈の血流を増加させ血流のうっ滞を防止する。出血リスクがある場合に有効な予防方法であり、高リスク症例に対しても予防効果がある。

     薬物的予防法としては、8または12時間ごとに未分画ヘパリン5000単位を皮下注射する方法が低用量未分画ヘパリンである。活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)を正常上限に設定して、ヘパリンの投与量を調整しながらDVT予防をおこなうのが用量調節未分画ヘパリンである。低用量未分画ヘパリンはモニタリングが不要なのに対して後者は頻回の採血が必要でありあまり実用的ではない。用量調節ワルファリンは周術期に経口摂取可能な整形外科領域で使用されることが多いが、ワルファリンのモニタリングを行わなくてはいけない点、ワルファリンは効果発現までに時間がかかる点などが問題で、最近は新規経口抗凝固薬にシフトしている。新規抗凝固薬としてVTE予防に使用可能となった薬剤にエノキサパリン(低分子量ヘパリン)、フォンダパリヌクス、エドキサバン(抗Xa薬)がある。これらの薬剤の利点は生物学的利用率が高く、モニタリングを必要としない点である。主に高リスク以上の症例に使用される。

    図表

    • 表 リスクレベルとDVT予防法

    引用文献

    1) 肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドライン作成委員会:肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドライン,東京,メディカルフロントインターナショナルリミテッド,2004.
    2) 肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断,治療,予防に関するガイドライン(2009年改訂版).
    3) 日本整形外科学会肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドライン改訂委員会:日本整形外科学会静脈血栓塞栓症予防ガイドライン,東京,南江堂,2008.
    4) Wells PS, Lensing AW, Hirsh J: Graduated compression stockings in the prevention of postoperative venous thromboembolism. A meta-analysis. Arch Intern Med 154: 6772, 1994.