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悪性腫瘍と凝固 malignant tumor and thrombosis
解説
【疫学】
癌に静脈血栓塞栓症(VTE)が併発することは1865年にTrusseauが発表してから知られている. 臨床的にはより進行した病期や腫瘍量の多さ, 入院期間の長さなどが血栓の発生リスクを増加させることが知られており、血栓症の併発は生命予後を悪くすると言われる1). 米国のレトロスペクティブな臨床検討によると1874人の癌患者(2005年~2012年)における血栓症の発生率は16.4%と高値であった. そのうち2%は血栓症の既往があったが14.4%は癌と診断された3か月前以降に発病したといわれる2). 特に膵臓癌や脳腫瘍は血栓症のリスクが高い(表).
【病態機序】
その発生機序の詳細は不明であるが, 癌細胞が組織因子(TF)を発現し常に血液中にTF陽性のMicroparticles(MFs) を放出し続けることにより凝固系が活性化するものと考えられている3). TF高発現の腫瘍(急性前骨髄球性白血病など)では播種性血管内凝固症候群(DIC)合併例が多く, TF低発現の腫瘍(悪性リンパ腫など)では少なかったという報告もある4). TF以外にも癌細胞由来のプロコアグラント5)やムチン6), サイトカインなども凝固系を活性化するものと考えられており血栓症発症に寄与すると考えられている.
【治療】
血栓溶解療法が第一選択になりつつあるが、下肢の深部静脈血栓症においては、広範囲の血栓症は下肢の著しい緊満や疼痛、さらには壊死など重篤な症状を呈することもあり、緊急の血栓除去術が必要であることもある。血栓症の予防、診断、治療に関しては、日本血栓止血学会や日本循環器学会などの合同研究班が作成した「肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2009年改訂版)」を参照のこと.
【予後】
広範な血栓症の予後は極めて予後不良であり、早期診断と適切な治療が死亡率を大きく改善するといわれる。血栓症の既往や手術リスクなどを考え、早期離床や周術期の血液過凝固状態の管理を充分に行い、予防と早期治療につとめる必要がある。しかしながら、予防しても血栓症発症をゼロにすることはできないことから、経過観察を行うとともに、急変時には集中治療室に搬送するなどあらかじめ手順を決めておくことが重要である/
図表
参考文献
1) Sørensen HT, Mellemkjaer L, Olsen JH, Baron JA: Prognosis of cancers associated with venous thromboembolism. N Engl J Med 343: 1846
2) Amer MH: Cancer-associated thrombosis: clinical presentation and survival. Cancer Manag Res 5: 165
3) Geddings JE, Mackman N: Tumor-derived tissue factor-positive microparticles and venous thrombosis in cancer patients. Blood 122: 1873
4) Wada H, Nagano T, Tomeoku M, Kuto M, Karitani Y, Deguchi K, Shirakawa S: Coagulant and fibrinolytic activities in the leukemic cell lysates. Thromb Res 15; 30(4): 315-322, 1983.
5) Falanga A, Consonni R, Marchetti M, Locatelli G, Garattini E, Passerini CG, Gordon SG, Barbui T: Cancer procoagulant and tissue factor are differently modulated by all-trans-retinoic acid in acute promyelocytic leukemia cells. Blood 1; 92(1): 143-51, 1998.
6) Borsig L1, Wong R, Hynes RO, Varki NM, Varki A: Synergistic effects of L- and P-selectin in facilitating tumor metastasis can involve non-mucin ligands and implicate leukocytes as enhancers of metastasis. Proc Natl Acad Sci U S A.19; 99(4): 2193-2198, 2002.