大分類
  • 線溶
  • 小分類
  • 病態
  • 腹部大動脈瘤と線溶

    2015/02/17 作成

    解説

    1) 病態・病因
     動脈瘤とは動脈の限局的拡張であり、腹部大動脈瘤は最も頻度の多い大動脈瘤である。動脈瘤局所では凝固の亢進が起こり、フィブリンの形成が促進される。それに伴い線溶系が亢進するが、その程度は軽度のフィブリン分解産物(FDP)/Dダイマー(DD)上昇から、血小板やフィブリノゲン低下に伴い臨床的な出血傾向を呈するものまで様々である。


    2) 疫学

     大動脈瘤76例中4%に凝固異常を認めたとする報告があるが(1)、腹部大動脈瘤に限るとさらに頻度は低い。凝固障害を伴う腹部大動脈瘤の症例報告には瘤径の大きなものが多い。


    3) 検査と診断

     腹部大動脈瘤に伴う凝固異常の特徴は線溶の亢進である。検査所見ではプラスミンα2プラスミンインヒビター複合体(PIC)の上昇、α2プラスミンインヒビター(α2PI)およびプラスミノゲンの低下が特徴的である。FDPやDDも上昇するが、フィブリノゲン分解の進行を反映してFDP/DD比が上昇しやすい。


    4) 治療の実際

     大動脈瘤に対する治療により凝固障害が軽快することが多い(2)。大動脈瘤手術を行うため、もしくは手術適応のない動脈瘤の場合は薬物治療が行われる。未分画ヘパリンや低分子ヘパリンによる抗凝固療法や凝固因子の補充が一般的であるが、不十分な場合にはメシル酸ナファモスタットなどのタンパク分解酵素阻害剤、ダナパロイドなどのヘパリン類やトラネキサム酸による抗線溶療法の併用が有効であったとする報告もある(3)。薬物治療開始後は通常5~6日以内に凝固障害は改善するが、改善しない場合は早期に手術を行うことが推奨される(2)。手術は従来開腹人工血管置換術が行われてきたが、最近ではステントグラフト内挿術を行い、奏功した症例も報告されている(4)。


    5) その他のポイント・お役立ち情報

     ステントグラフト治療後は、エンドリークにより凝固障害が発症して、追加の手術や血管内治療または内科的治療が必要になることがある(5)。

    参考文献

    1) Fisher DF, Yawn DH, Crawford ES: Preoperative disseminated intravascular coagulation associated with aortic aneurysms. A prospective study of 76 cases. Arch Surg 118: 12521255, 1983.
    2) 亀井秀,et al.:播種性血管内凝固症候群(DIC)を合併した大動脈瘤の検討,日本血管外科学会雑誌10(3):429-435,2001.
    3) 道本智,et al.:再生不良性貧血と線溶亢進型DICを合併した腹部大動脈瘤に対する1手術治験例,日本血管外科学会雑誌20(6):873-877,2011.
    4) 松村 祐,et al.:症候性DICに対しEVARを施行した1例,日本心臓血管外科学会雑誌42(5):447-451,2013.
    5) Nienaber JJ, Duncan AA, Oderich GS, Pruthi RK, Nichols WL: Operative and nonoperative management of chronic disseminated intravascular coagulation due to persistent aortic endoleak. J Vasc Surg 59: 14261429, 2014.