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  • 凝固制御機序(TM-PC-PS系) Coagulation regulatory mechanism (TM-PC-PS pathway)

    2025/09/24 更新
    2015/08/20 作成

    解説

    凝固制御機序(TM-PC-PS系)
    血液凝固は傷害部位での出血を阻止する止血と傷害組織の修復のための生理的反応であり、傷害部位以外での凝固反応は凝固制御因子によって阻止されている。また、凝固制御因子は血液の流動性を保ち、生体組織の機能を維持する役割を持っている。凝固制御機序には、凝固反応の増幅因子である凝固補酵素タンパクを分解して凝固反応を抑制するプロテアーゼ阻害機序(トロンボモジュリン[TM]-プロテインC[PC]-プロテインS[PS]系)と活性型プロテアーゼ凝固因子を直接阻害するプロテアーゼインヒビターによる制御機序(参照:セルピンによる凝固制御機序)に大別される。ここでは、TM-PC-PS系について述べる。

    1.TM-PC-PS系の開始機序
     TM-PC-PS系は、血中のトロンビンが血管内皮細胞上の膜タンパク質トロンボモジュリン(TM)に高親和性で結合することによって開始される。トロンビン-TM複合体は、血管内皮細胞プロテインC受容体(EPCR)に結合したセリンプロテアーゼ前駆体のPCを選択的に限定分解して活性化し、活性型PCactivated PC: APC)を生成する。一方、トロンビン-TM複合体は、PCの他に thrombin-activatable fibrinolysis inhibitor(TAFI)を活性化する。このトロンビン-TM複合体による過度のPCTAFIの活性化および不要なAPCは血中のプロテインCインヒビター(PCI)によって制御される。

    TM-PC-PS系による凝固制御機序
    (1)TM
    による凝固制御機序: TMはトロンビン分子上の凝固促進因子前駆体の結合部位に競合的に結合して、トロンビンの凝固促進作用(フィブリン生成、第V因子・第VIII因子・第XIII因子の活性化、血小板活性化など)を阻害する。

    (2)APCの凝固制御機序:APCは凝固反応増幅因子で活性型補酵素タンパクの第Va因子と第VIIIa因子を限定分解して失活化し、凝固増幅反応を阻害してトロンビン生成を抑制する。(「プロテインC」の項参照)

    (3)PSによるAPC活性促進機序:APCによる第Va因子と第VIIIa因子の失活化は遊離型PSによって促進される(PSAPC補酵素活性)。その機序は細胞膜リン脂質に結合したPSにプロテアーゼであるAPCとその基質タンパク(第Va因子・第VIIIa因子)が集積してタンパク分解反応を高めることによる。なお、APCによる第VIIIa因子の失活化には、PSだけでなく未活性型第V因子が補助因子として作用する。

    (4)PSによる外因系凝固制御機序: PSは組織因子活性化凝固機序を制御する tissue factor pathway inhibitor(TFPI)による第Xa因子の阻害反応を促進して、外因系凝固機序を制御すると報告されている。

    (5)PS活性の制御機序: PSAPC補酵素活性は、補体系制御因子のC4b-binding protein(C4BP)によって阻害される。C4BPに結合したPSAPC、第Va因子、第VIIIa因子への結合が阻害されるためと考えられている。

    TM-PC-PS系による線溶と炎症の制御
    (1)TM
    の抗炎症機序:「トロンボモジュリン」の項参照のこと。

    (2)APCの抗炎症機序:EPCRに結合したAPCは、炎症性細胞のプロテアーゼ活性化受容体(PAR-1)のトロンビン作用部位とは別の部位を限定分解して活性化し、細胞内の抗炎症性シグナル伝達系を作動させて、NF-κBの活性化を阻害して抗炎症作用を誘導する。また、抗アポトーシス関連遺伝子の発現を高めて細胞保護作用を示す。さらに、APCは白血球(好中球、単球、マクロファージ)細胞膜のインテグリンβ1/β3およびCD11b/CD18の活性化を阻害して炎症の亢進を制御する。

    (3)活性型TAFI(TAFIa)は、フィブリン上のtPAやプラスミンの結合部位であるlysine残基を切除して線溶反応を制御して局所の血栓を保護するとともに、補体系因子のC3a及びC5aを限定分解して補体反応を阻害して炎症反応を制御する。

    4.TM-PC-PS系凝固制御系関連因子の遺伝子欠損マウス、ヒト先天性欠損症
    TM、EPCRPSの遺伝子破壊マウスは胎生致死し、PC遺伝子破壊マウスは胎生致死あるいは出生直後に死亡する。ヒトのTMEPCRPSの先天性ホモ欠損症は出生できず、PCの先天性ホモ欠損症(PC-Mieなど)の多くは出生直後に播種性血管内凝固症候群(DIC)をきたして早期に死亡する。PCのヘテロ欠損症・機能低下症は高頻度に血栓症をきたし、PSのヘテロ欠損・機能低下症(PS-Tokushimaなど)は我が国では高頻度に存在する先天性血栓性素因として知られている。APCによる第VIIIa因子の失活化を補助する第V因子の異常症(FV-Nara)は血栓症をきたして発見された。TMの機能低下症(TM-Nagasaki)はDICをきたし、DIC治療薬の組換えTM製剤の投与で延命された。

    参考文献

    1. 鈴木宏治:プロテインCとプロテインS. Thrombosis Medicine 2011; 1: 94-97.
    2. 鈴木宏治:トロンボモジュリンとプロテインC. Thrombosis Medicine 2012; 2: 10-17.
    3. 鈴木宏冶、本田剛一:内皮細胞のトロンボモジュリン・プロテインCシステムによる炎症の制御. 別冊BIO Clinica 慢性炎症と疾患, 2013;2:122-127.
    4. 鈴木宏治:血栓症の分子病態と臨床検査. 臨床検査. 2014;58:940-948.
    5. 野上恵嗣:先天性第V因子異常症 “Factor V Nara”. The Japanese Journal of Pediatric Hematology/Oncology. 2018; 55: 123–127.
    6. Suzuki K. (review) Thrombomodulin: A key regulator of intravascular blood coagulation, fibrinolysis, and inflammation, and a treatment for disseminated intravascular coagulation. Proc Jpn Acad, Ser. B. 2025; 101: 75-97. https://doi.org/10.2183/pjab.101.006