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凝固制御機序(TM-PC-PS系)
解説
凝固制御機序(TM-PC-PS系)
凝固制御因子は、血管の傷害部位以外での血栓形成を阻止し、血液の流動性維持や生体組織の機能を維持する生体防御機構に関与する。凝固制御機序には、凝固反応増幅因子である凝固補酵素タンパク質を分解して凝固反応を抑制するプロテアーゼ制御機序(トロンボモジュリン[TM]-プロテインC[PC]-プロテインS[PS]系)、および活性型プロテアーゼ凝固因子を抑制するプロテアーゼインヒビター制御機序(参照:セルピンによる凝固制御機序)に大別される。ここでは、TM-PC-PS系について紹介する。
1.TM-PC-PS系の開始機序
TM-PC-PS系は、血中のトロンビンが血管内皮細胞上のトロンビン受容体であるTMに結合することによって開始される。トロンビン-TM複合体は、血管内皮細胞プロテインC受容体(EPCR)に結合したセリンプロテアーゼ前駆体のPCを効果的に限定分解して活性化して、活性化PC(activated PC: APC)を生成する。このトロンビン-TM複合体によるPCの活性化およびAPCは血中のプロテインCインヒビター(PCI)で阻害される。
2.TM-PC-PS系による凝固制御機序
1)TMによる凝固制御機序: TMそれ自体が遊離型トロンビンのもつ凝固促進活性(フィブリン生成、凝固第V因子・凝固第VIII因子・凝固第XIII因子の活性化、血小板活性化など)を消失させる。
2)APCの凝固制御機序:APCは凝固反応増幅因子で活性型補酵素タンパク質の第Va因子と第VIIIa因子を限定分解して失活化し、凝固増幅反応を制御してトロンビン生成を抑制する。(「プロテインC」の項参照)
3)PSのAPC活性促進機序:APCによる活性化凝固第V因子と活性化凝固第VIII因子のタンパク質分解反応はPSの存在下に促進される。その機序は、PSがAPC、第Va因子、第VIIIa因子に高い親和性を有し、細胞膜上のPS分子上にAPCとその基質(第Va因子・第VIIIa因子)を集積させてタンパク質分解反応を高めることによる。
4)PS活性の制御: PSのAPC補酵素活性は、補体系制御因子のC4b-binding protein (C4BP)によって抑制される。C4BP結合PS分子はAPC、第Va因子、第VIIIa因子が結合できないためと考えられている。
3.TM-PC-PS系による炎症制御機序
1)TMの抗炎症機序:「トロンボモジュリン」の項参照のこと。
2)APCの抗炎症機序:EPCRに結合したAPCは、炎症細胞膜上のプロテアーゼ活性型受容体(PAR)を活性化し、細胞内の抗炎症性シグナル伝達系を作動して、NFκBの活性化を阻害して抗炎症作用を誘導するとともに、抗アポトーシス関連遺伝子の発現を高めて細胞保護作用を示す。さらに、APCはインテグリンβ1/β3およびCD11b/CD18の活性化を阻害して炎症時の白血球の活性化を抑制する。
4.凝固制御因子の遺伝子ノックアウトマウス、ヒト先天性欠損症
TM、EPCR、PSの遺伝子ノックアウトマウスは胎生致死し、PC遺伝子ノックアウトマウスは胎生致死あるいは出生直後に死亡する。ヒトのTM、EPCR、PSの先天性ホモ欠損症は出生されず、PCの先天性ホモ欠損症の多くは出生直後に播種性血管内凝固症候群(DIC)をきたして死亡する。
参考文献
1)鈴木宏治:プロテインCとプロテインS. Thrombosis Medicine 2011; 1: 94-97.
2)鈴木宏治:トロンボモジュリンとプロテインC. Thrombosis Medicine 2012; 2: 10-17.
3)鈴木宏治:血栓症の分子病態と臨床検査. 臨床検査. 2014;58:940-948.
4)鈴木宏治:血液凝固制御系の異常:図説 分子病態学 改訂5版(一瀬白帝、鈴木宏治 編著)中外医学社、東京、2014; 212-220.