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炎症と凝固
解説
炎症反応が凝固反応に促進的に作用することは臨床病態において良く経験される。日本救急医学会は、この病態をSIRS(全身性炎症反応症候群)associated coagulopathy (SAC) としている。
生理的環境下においては、臓器障害に繋がる過剰な血栓形成は、主に凝固制御系であるアンチトロンビン-ヘパラン硫酸系、トロンボモジュリン-プロテインC系、そしてプラスミンによる線溶系にてしっかりと抑制されるが、過剰炎症の生体内環境下においては、アンチトロンビンの活性低下、トロンボモジュリンの発現低下、プラスミノゲンアクチベータインヒビター1(PAI-1)の上昇等による抗血栓性の機能低下により向凝固の状態となる。そして、過剰な炎症の病態は播種性血管内凝固症候群(DIC) の原因となる。 炎症による凝固系のトリガーとして単球の細胞膜上での組織因子の発現による外因系凝固の活性化はこれまでに知られていたが、死細胞由来の細胞成分であるヒストン、HMGB1などの DAMPs (damage-associated molecular patterns) による内因系凝固の活性化の知見は「炎症による凝固亢進」の概念を大きく進歩させた。特に、炎症性刺激によって活性化された好中球による neutrophil extracellular traps (NETs) (参照:NETs形成と血小板)による血栓形成の促進と臓器障害は近年注目されている。また、血小板と他の血球との相互作用における観察も血小板の炎症病態への関与についての理解を深めた。
α顆粒膜上に存在する血小板Pセレクチンは活性化に伴い血小板膜上に移動して、そのリガンドであるPSGL-1 (P-selectin glycoprotein ligand 1)を介して好中球、単球との相互作用により炎症反応と凝固反応の活性化に関わる。また、活性化血小板から放出されたマイクロパーティクルは向血栓性を示すとともに好中球の血管内皮細胞上へのrollingを促す。血小板膜より遊離した可溶性のCD40リガンドは血小板血栓の安定化に寄与することで知られるが、CD40-CD40リガンドの相互作用はB細胞のクラススイッチに必要な分子である。また、DAMPsであるヒストンは血小板凝集能を有することも報告されている。
参考文献
1) 血小板と炎症:橋口 照人, 医学のあゆみ: 251(2), 165-168; 2014
2) NETosisとDIC:橋口 照人,医学のあゆみ: 238(1), 10-12; 2011