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プロトロンビン・トロンビン prothrombin / thrombin
解説
【概要】
ヒト・プロトロンビン(凝固第II因子)は、肝臓でビタミンK依存性に合成されるセリンプロテアーゼの不活性な前駆体(分子量72,500 Da)であり、N末端側よりGlaドメイン(細胞膜結合ドメイン)、2個のクリングルドメイン、そしてセリンプロテアーゼドメインから構成される一本鎖タンパク質である。プロトロンビンはプロトロンビナーゼ複合体(活性化凝固X因子、活性化凝固V因子、Ca²⁺、リン脂質)によって限定分解を受け、活性型セリンプロテアーゼであるα−トロンビンへ変換される。α−トロンビンは、A鎖(6,000 Da)とB鎖(31,000 Da)からなるヘテロ二本鎖タンパク質(分子量37,000 Da)で、可溶性タンパク質であるフィブリノゲン(凝固第I因子)を限定分解して不溶性のフィブリンを形成し、血栓形成に寄与する。また、α−トロンビンは、フィブリノゲンのほか、凝固第Ⅴ因子、凝固第Ⅷ因子、凝固Ⅺ因子、プロテインCなどの多彩な基質を活性化する。さらに、トロンボモジュリンに結合することで基質特異性が変化し、フィブリノゲンなどの凝固因子への作用を抑えつつ、プロテインCを優先的に活性化して抗凝固機構を促進する。ヒト・プロトロンビンの血中半減期は2.81±0.51日、血漿濃度は0.153±0.02 mg/mL(およそ2 µM)である。
【検査値・病態との関わり】
プロトロンビン時間(Prothrombin Time; PT)は、組織因子(Tissue Factor; TF)を引き金とする外因系および共通経路の凝固能を評価する検査で、ワルファリン治療のモニタリングに不可欠な指標である。外科手術前の出血リスク評価としても広く利用される。プロトロンビンはそのほとんどが肝臓で合成されるため、肝硬変や劇症肝炎などの肝機能低下では合成能が低下し、プロトロンビン時間の延長を引き起こす。
【細胞に対する作用】
α−トロンビンは、血液凝固因子および抗凝固因子に作用するだけでなく、血小板、血管内皮細胞、平滑筋細胞、神経細胞、免疫細胞など、さまざまな細胞種に対しても多彩な生理的作用を及ぼす。これらの細胞応答は、Protease-Activated Receptor(PAR)と呼ばれるGタンパク質共役型受容体を介して伝達される。PARは、そのN末端がα−トロンビンにより特異的に切断されることで活性化される。
参考文献
1) 朝倉英策編集:臨床に直結する血栓止血学(中外医学社)
2) Shapiro SS, Martinez J: Human prothrombin metabolism in normal man and in hypocoagulable subjects. 1969, J Clin Invest. 48, 1292–1298.
3) 千々岩崇仁、武谷浩之:2013, トロンビン受容体PAR-1の立体構造、日本血栓止血学会誌24, 454-459.
4) 徳永尚樹:PT・APTT・フィブリノゲン:2018, 日本血栓止血学会誌 29, 558-563.