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HMGB1
解説
■概要
HMGB1(high mobility group box-1 protein)は以前に神経突起伸張因子として同定されていたamphoterin と同一物質であるが、現在は代表的なDAMPs(damage associated molecular patterns) の一つとして認識されている。HMGB1の機能は通常は核内に局在する場合にはDNA立体構造の維持、NF-kB やp53など転写因子類の機能発現に必須の役割を果たすタンパク質である(図1)。しかし全ての有核細胞の壊死に際して、また樹状細胞、マクロファージなどからは生細胞活の常態の性化によって細胞外に放出される。細胞外ではHMGB1 は糖化タンパク質AGEの受容体RAGEやTLR-2,-4を介してDAMPs活性を発揮する。すなわち細胞遊走、増殖などを誘導し、自然炎症、自然免疫、止血、修復のアジュバントとして働くが、過剰の場合には、全身的にはショックや播種性血管内凝固症候群(DIC)の、局所でも慢性的に作用すると関節リウマチやARDS, 間質性肺炎などのメディエーターとなる(図2)。
■DAMPsとしての機能
1)炎症、免疫系に対する作用
細胞外に遊離してきたHMGB1はAGE(advanced glycation endproducts) の受容体やTLR-2, -4を介してDAMPs として働き、インフラマソームの活性化を引き起こし、炎症性サイトカイン(IL-1β, TNFαなど)を産生放出させて炎症を引き起こす1)。
2)凝固系に対する作用
単球/マクロファージにおいて、組織因子(TF)の発現を誘導し、止血反応を促進する2)。
3)修復作用
SDF1と結合して、前駆細胞、幹細胞の遊走と増殖を誘導して、修復反応を促進する。
■ショック、DIC のメディエーター
DICは敗血症やショックなどの致死的メディエーターとして働く。すなわち動物実験ではエンドトキシン投与の際の遅延性の死のメディエーターとして作用する
■制御系
細胞外ではトロンボモジュリン(TM)のレクチン様ドメイン(D1ドメイン)に結合して活性を失う。そのあと、このTMに結合したHMGB1は同じくTMに結合しているトロンボモジュリンによって分解される。このように内皮細胞上のTM分子は、HMGB1の向炎症活性や向凝固作用を限局化する役割を果たすものと想定される。これは遺伝子組換え体のトロンボモジュリンがショック、敗血症などの有効性の分子基盤を成しているものと考えられる2)(図2)。
■負の側面
HMGB1は局所的、一過性の場合には自然免疫、止血など生体防御的な反応を誘導し、また修復にも重要な役割を果たしているものと考えられるが、それが全身的に作用すると、ショックやDICのメディエーターとなる。あるいは局所的でも慢性的に作用すると単臓器の炎症性疾患(関節リウマチ、間質性肺炎、腎炎など)を惹起する。
■臨床
測定はELISA測定系(シノテスト)が発売されている。
■問題点
HMGB1がメディエーターとして作用している敗血症性ショック、難治性炎症に対してHMGB1を標的とした治療法が待望されている。
図表
参考文献
1) Lu B, Wang C, Wang M, Li W. et al: Molecular mechanism and therapeutic modulation of high mobility group box 1 release and action: an updated review. Expert Rev Clin Immunol 10(6): 713-27, 2014.
2) Ito T, Maruyama I: Thrombomodulin: protectorate God of the vasculature in thrombosis and inflammation. J Thromb Haemost 9 Suppl 1: 168-73, 2011.