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  • ヘパリン起因性血小板減少症(HIT) heparin-induced thrombocytopenia (HIT)

    2015/02/17 作成

    解説

    【病態・病因】

     投与された未分画・低分子量ヘパリンが、血小板第4因子(PF4)と複合体を形成し、新たな抗原性を提示し、抗血小板第4因子ヘパリン複合体抗体の産生を促す。その一部(HIT抗体)が血小板や単球などを活性化させ、トロンビンの過剰産生を引き起こし、血小板減少、動静脈血栓塞栓症を発症するという重篤な有害事象がヘパリン起因性血小板減少症(HIT)である。

     最近、後述するように、ヘパリン投与を受けない患者でのHIT発症の報告が増加し、疾患概念が変貌しつつある。原因不明の奇異な血小板減少を伴う血栓塞栓症の発症を見た場合、HITを鑑別診断に加えることが過少診断を防ぐ上で重要である。


    【症状・疫学】

     通常ヘパリン投与開始後5-14日に発症する。投与前値や術後血小板数の回復レベルから30-50%以上の血小板数低下を来たす。平均最低血小板数は6万/μL程度で、出血を来すことはほとんどない。逆に、適切な治療を行わなければ、患者の約50%は動静脈血栓塞栓症(肺塞栓症、心筋梗塞、脳梗塞、脳静脈洞血栓症など)を発症し、約10%が死に至る。本邦での発症頻度は、基礎疾患により異なるが、ヘパリン治療患者の0.1-1%程度と推定される。


    【検査と診断】

     臨床診断法として4T’sスコアなどがある。臨床的HITらしさと、血小板活性化能を持つHIT抗体の検出を行う血清学的診断とを組み合わせ、clinicopathologic syndromeとして診断することが過剰診断を防ぐ上で重要である。(参照:「抗血小板第4因子・ヘパリン複合体抗体(HIT抗体)」)

    【治療の実際】

     治療薬ヘパリンヘパリン加生食、ヘパリンコーティングカテーテル、回路などすべてのヘパリンを中止する。強くHITを疑った場合には、血清学的診断の結果を待つことなく、また、血栓症合併の有無に関わらず、すみやかに抗凝固療法を開始する。現時点で、海外承認HIT治療薬のなかで、本邦で使用可能な薬剤はアルガトロバンとダナパロイドである(薬事承認されているのはアルガトロバンのみ)。薬事承認はないがフォンダパリヌクスが有効との報告もある。


    【お役立ち情報】(spontaneous HIT syndrome)

     抗PF4/ヘパリン抗体は、ヘパリン投与なしに、他の多価陰イオン、たとえば、細菌表面、核酸によっても誘導される。ヘパリン投与歴のない整形外科術後患者(手術による組織破壊などによる核酸の放出)や感染症患者(細菌表面や細菌、ウイルスの崩壊による核酸の放出)でのHIT発症報告が増加している。さらに、何の誘因もなく発症しうることもあり、ヘパリン投与歴のない症例で疑うことは難しく、見逃されている可能性がある。

    参考文献

    1) 宮田茂樹:ヘパリン起因性血小板減少症における最新の知見,血栓止血誌 23:362-374,2012.
    2) Okata T, Miyata S, Miyashita F, Maeda T, Toyoda K: Spontaneous heparin-induced thrombocytopenia syndrome without any proximate heparin exposure, infection, or inflammatory condition: Atypical clinical features with heparin-dependent platelet activating antibodies. Platelets 26: 602607, 2015.