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  • ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)/抗PF4抗体疾患 heparin-induced thrombocytopenia (HIT) / anti-PF4 disorder

    2024/06/05 更新
    2015/02/17 作成

    解説

    【病態・病因】

    ヘパリン類が投与されると血小板第4因子(PF4)と複合体を形成することで、PF4が開裂し新たなエピトープを提示して、抗PF4/ヘパリン複合体抗体(HIT抗体)の産生を促す。一部のHIT抗体は血小板や単球などを活性化させ、トロンビンの過剰産生を引き起こし、血小板減少や動静脈血栓症を引き起こす。このヘパリンによる有害事象がヘパリン起因性血小板減少症(HIT)である。

    以前からヘパリン曝露歴のない患者でも感染や外傷を契機に血小板減少と血栓症を発症し、原因がHIT抗体であることが報告されていた。COVID-19パンデミック時にはアデノウイルスベクターワクチン接種後にワクチン起因性免疫性血栓性血小板減少症(VITT)が報告され、高い致死率から全世界的に周知された。その後、VITTはアデノウイルス感染後などワクチン以外でも発症し、抗PF4抗体(ヘパリン投与に起因して産生される抗PF4抗体の場合はHIT抗体と呼ばれる)が原因で、血小板を過剰に活性化させた結果、HITと同様の症状を呈することから「抗PF4抗体疾患」という新しい概念が提唱されており、HITはそれに含まれる。原因不明の血小板減少を伴う稀な部位での血栓塞栓症(脳静脈血栓症など)では、HIT/抗PF4抗体疾患を鑑別診断に加えることが重要である。

    【症状・疫学】

    ヘパリン投与開始後5-14日に発症し、投与前値や術後血小板数の回復レベルから30-50%以上の血小板数低下を来す。血小板数は1万/μLを下回ることは稀で、出血を来すことはほとんどない。逆に、適切な治療を行わなければ、患者の約50%は動静脈血栓症(肺塞栓症、心筋梗塞、脳梗塞、脳静脈血栓症など)を発症する。本邦での発症頻度は、基礎疾患により異なるが、ヘパリン治療患者の0.1-1%程度と推定される。

    一方、HIT以外の抗PF4抗体疾患では重篤化することが多く、血小板数も低値となり出血傾向を示す。VITTの頻度はChAdOx1 nCoV-19ワクチン接種者100万人に10-100人程度と報告されているが、それ以外は症例報告のみで頻度は不明である。

    【検査と診断】

    HITの臨床診断法として4Tsスコアが用いられる。4Tsスコアが4点以上であれば、HIT抗体検査を行い、感度が極めて高い検査であるため陰性であればHITを除外する。陽性の場合、偽陽性も多いことから血小板活性化能を持つHIT抗体の検出を行って診断することが過剰診断を防ぐ上で重要である(参照:「抗血小板第4因子/ヘパリン複合体抗体(HIT抗体)」)。

    一方、HIT以外の抗PF4抗体疾患の診断には酵素結合免疫測定法(ELISA)を用いないと抗PF4抗体を検出できないため、ラテックス凝集比濁法や化学発光免疫測定法では偽陰性の可能性がある。抗PF4抗体疾患を疑った際は、ELISAや機能的測定法が実施可能な研究施設に相談する必要がある。

    【治療の実際】

    HITの場合、ヘパリンによる治療・予防、ヘパリン加生食、ヘパリンコーティングカテーテル、回路などすべてのヘパリンを中止する。強くHITを疑った場合には、HIT抗体の結果を待つことなく、血栓症合併の有無に関わらず、速やかに抗凝固療法を開始する。本邦で薬事承認されて使用可能な薬剤はアルガトロバンのみである。

    出血傾向を認め、血小板数が1万/μLを下回るような重篤なHIT/抗PF4抗体疾患では免疫グロブリン静注療法を行うことが推奨されている(薬事未承認)。そして血小板が回復後には速やかに抗凝固療法を開始する。

    参考文献

    ・矢冨裕, 家子正裕, 他:ヘパリン起因性血小板減少症の診断・治療ガイドライン.血栓止血誌. 32 737-782, 2021.

    Warkentin TE, Greinacher A: Laboratory testing for heparin-induced thrombocytopenia and vaccine-induced immune thrombotic thrombocytopenia antibodies: a narrative review. Semin Thromb Hemost. 49: 621-633, 2023.