大分類
  • 凝固
  • 小分類
  • 分子
  • ホスファチジルセリン phosphatidylserine

    2015/02/17 作成

    解説

    【概要】
     ホスファチジルセリンは、細胞膜の二重層を構成するリン脂質のひとつであり、ホスファチジルコリンやホスファチジルエタノールアミンの塩基交換反応によって生産される。強い陰性荷電を有しており、通常は細胞膜の内層に位置している。細胞膜はフリップ・フロップによって移動を行い、膜中でリン脂質が非対称で不均一な分布をとっている。これを制御するメカニズムとして、いくつかの輸送分子が知られている。すなわち、ホスファチジルセリンを内向きに(形質膜外層から内層へ)輸送するフリッパーゼ(アミノリン脂質トランスロケース)や、カルシウム依存的にリン脂質を両方向に輸送するスクランブラーゼなどがある。
     細胞が活性化されると、これらのリン脂質輸送分子が作動して、内層に局在するホスファチジルセリンが外層へ移動すると考えられる。さらに、細胞にアポトーシスが起こる時、細胞膜非対称を維持する分子が機能しなくなるため、ホスファチジルセリンは細胞膜の細胞質側にもはや制限されず、細胞の表面に露出するようになる。このホスファチジルセリンを認識することにより,食細胞は生きた細胞を貪食せず特異的にアポトーシスを起こした細胞を貪食すると考えられているため、暴露されたホスファチジルセリンを「eat meシグナル」とよぶ。

    【血液凝固反応における意義】
     Gla-ドメインをもつ血液凝固タンパク質は、カルシウム依存的にホスファチジルセリンに結合して活性化される。すなわち、内皮細胞や単球、血小板などの向血栓細胞が活性化されてホスファチジルセリンが細胞表面に暴露されると、血漿中のビタミンK依存性凝固因子がそれを認識して結合し、一連の凝固反応が促進される。同時に、ビタミンK依存性抗凝固因子であるプロテインCプロテインSも活性化され、凝固反応の制御がおこなわれる。

    【自己免疫応答における意義】
     ホスファチジルセリンは血栓惹起自己抗体である抗リン脂質抗体のターゲットであると考えられてきた。しかし、実際の抗リン脂質抗体の抗原エピトープは、ホスファチジルセリンに結合する血漿タンパク質であることがわかった。代表的な抗リン脂質抗体の対応抗原タンパク質は、β2グリコプロテインIとプロトロンビンである。

    参考文献

    1) Segawa K, Kurata S, Yanagihashi Y, Brummelkamp TR, Matsuda F, Shigekazu N: Caspase-mediated cleavage of phospholipid flippase for apoptotic phosphatidylserine exposure. Science 344, 1164-1168, 2014.
    2) Atsumi T, Amengual O, Koike T: Antiphospholipid syndrome: pathogenesis. In: Lahita RG, editor. Systemic Lupus Erythematosus 5th edition. San Diego, Academic Press, 2010, 945-66.