大分類
  • 血小板
  • 小分類
  • 疾患
  • 偽性血小板減少症 pseudothrombocytopenia

    2015/02/17 作成

    解説

    <概念>
     採血後のin vitroでの血小板凝集により、実際の循環血小板数よりも自動血球計数機によってカウントされる血小板数が少ない場合を偽性血小板減少症とよぶ。日常診療で比較的よく見られ、見かけ上血小板数が減少しているため特発性血小板減少性紫斑病(ITP)などの血液疾患と間違えられることがあり、臨床的に重要である。血球数算定時には抗凝固剤としてEDTA塩が入った採血管を用いるのが通常であるが、EDTAが原因となって採血管の中で血小板凝集が生じる(EDTA依存性偽性血小板減少症)ことや血小板衛星現象(platelet satellitism)が起こることが知られている。また、採血困難によって組織液が混入する、あるいは採血後の抗凝固薬との混和不十分などにより血小板が活性化されて凝集やフィブリン析出が起き、血小板が凝集することもある。一般に偽性血小板減少症といえばEDTA依存性偽性血小板減少を指す。


    <EDTA依存性偽性血小板減少症>

     自動血球計数器では血小板の凝集塊は血小板と認識されないため、凝集があると実際より少なく報告される。1969年にGowlandらにより報告されて以来多数の報告がみられ、その頻度は血球計数症例の0.07~0.11%程度であるという。EDTA塩による二価陽イオンのキレート作用により血小板膜タンパク質(GPIIb/IIIa)上のエピトープが変化し、これに本症の血中に存在する免疫グロブリンが反応することがその本態とされる。あるいはEDTAの血小板膜への直接作用、すなわち膜のリジンのアミノ基やリン脂質などの陽性荷電と反応することにより起こるとの推定もあるが、不明な点も多い。基礎疾患を有する症例、すなわち自己免疫性疾患、慢性炎症性疾患、肝疾患、代謝性疾患や悪性腫瘍などで比較的多いとの報告もあるが、疾患特異性はなく、無症候の健診受診者でも見られる。薬物、例えば抗生物質、抗てんかん薬の投与との関連も示唆されている。


    <偽性血小板減少症への対応>

     血小板数が臨床所見と合致しない場合は偽性血小板減少症を積極的に疑う必要がある。診断は検査室で血小板凝集の有無を塗抹標本で確認することや自動血球計数器のヒストグラムの観察による。加えてEDTA血で凝集が認められた場合、他の抗凝固剤で再度採血して血小板数を測定するか、抗凝固剤を使用せずに即時に測定することで診断が確定する。血小板数の真値を知りたい場合、抗凝固剤としてはクエン酸ナトリウムが一般的に使用される。また、EDTA塩採血管にカナマイシン,コリマイシンなどの抗生物質を添加する、過剰量のEDTA塩を用いる、硫酸マグネシウム(MgSO4)の添加、GPIIb/IIIaやGPIbに対するモノクローナル抗体の添加、抗血小板剤の添加などが行われることもある。ただし抗凝固剤が液状の場合は希釈している倍数で血小板数を換算する必要がある。また、実際に血小板が減少している患者に偽性血小板減少症が合併することもあり、注意を要する。本症は特別な治療を必要としない状態であり、不必要な検査や治療を避ける為にも素早い診断が重要である。