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偽性血小板減少症 pseudothrombocytopenia
解説
<概念>
採血後にin vitroで生じる血小板凝集により、生体内の循環血小板数よりも自動血球計数機によって計測される血小板数が偽低値となる現象を偽性血小板減少症とよぶ。日常診療で比較的よく見られ、見かけ上血小板数が減少しているため免疫性血小板減少性紫斑病(ITP)などの血液疾患と間違えられることがあり、両者を正しく鑑別することが臨床的に重要である。血球数算定時には抗凝固剤としてEDTA塩が入った採血管を用いるのが通常であるが、EDTAが原因となって採血管の中で血小板凝集が生じる(EDTA依存性偽性血小板減少症)ことや血小板衛星現象(platelet satellitism)が起こることが知られている。また、採血困難によって組織液が混入する、あるいは採血後の抗凝固薬との混和不十分などにより血小板が活性化されて凝集やフィブリン析出が起き、血小板が凝集することもある。一般に偽性血小板減少症といえばEDTA依存性偽性血小板減少を指す。
<EDTA依存性偽性血小板減少症>
EDTA依存性偽性血小板減少症(EDTA-PTCP)は、EDTAを抗凝固剤とした試験管内で血小板凝集や白血球への付着(血小板衛星現象)が起こり、自動血球分析装置でみかけ上の血小板減少(偽低値)を呈するin vitroの現象である。1969年にGowlandらにより報告されて以来多数の報告がみられ、その頻度は約0.03~0.27%程度とされる1.2。原因は主に、EDTAのCa²⁺キレート作用により血小板膜糖蛋白(GPIIb/IIIa、GPIb/IX/V、GPIa/IIa など)の立体構造が変化し、通常は隠されているエピトープが露出することで、反応性を示す自己抗体(IgG/IgM/IgA)が結合・架橋し、凝集が誘発されることにある。あるいはEDTAの血小板膜への直接作用、すなわち膜のリジンのアミノ基やリン脂質などの陽性荷電と反応することにより起こるとの推定もあるが、不明な点も多い。基礎疾患を有する症例、すなわち自己免疫性疾患、慢性炎症性疾患、肝疾患、代謝性疾患や悪性腫瘍などで比較的多いとの報告もあるが、疾患特異性はなく、無症候の健診受診者でも見られる。薬物、例えば抗生物質、抗てんかん薬の投与との関連も示唆されている。
<偽性血小板減少症への対応>
血小板数が臨床所見と合致しない場合は偽性血小板減少症を積極的に疑う必要がある。本症を疑った際は、検査室にて塗抹標本における血小板凝集の有無を確認する。EDTA血で凝集が認められ、他の抗凝固剤で再度採血して血小板数を測定するか、抗凝固剤を使用せずに即時に測定した場合に凝集が認められなければ診断が確定する。血小板数の真値を知りたい場合、抗凝固剤としてはクエン酸ナトリウムが一般的に使用される。ただしクエン酸ナトリウムは抗凝固剤が液状であり血液が希釈されるため、希釈倍数で血小板数を換算する必要がある。他には、EDTA塩採血管にカナマイシン,コリマイシンなどの抗生物質を添加する、過剰量のEDTA塩を用いる、硫酸マグネシウム(MgSO4)の添加、GPIIb/IIIaやGPIbに対するモノクローナル抗体の添加、抗血小板剤の添加などが行われることもある。なお、実際に血小板が減少している患者に偽性血小板減少症が合併することもあり、解釈には注意を要する。本症は特別な治療を必要としない状態であり、不必要な検査や治療を避ける為にも素早い診断が重要である。
参考文献
- Gowland E, Kay HE. Pseudothrombocytopenia due to EDTA. J Clin Pathol. 1969.
- Lippi G, Plebani M. EDTA-dependent pseudothrombocytopenia: further insights and recommendations. Clin Chem Lab Med. 2012.