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    2025/06/18 更新
    2015/02/17 作成

    解説

    セレクチンについて

    セレクチンはCa2+依存的に糖鎖リガンドと結合するC型レクチンの一種であり、L-セレクチン(CD62L)P-セレクチン(CD62P)E-セレクチン(CD62E)3つのサブタイプに分類される。セレクチンの3つのサブタイプの貯蔵場所・誘導様式・発現タイミングは異なり、L-セレクチンは、すべての顆粒球と単球、およびほとんどのリンパ球に発現しているのに対し、P-セレクチンは血小板のα顆粒と内皮細胞のWeibel–Palade小体に貯蔵され、活性化された内皮細胞と血小板の細胞表面へ移行する。E-セレクチンは基底状態では皮膚の微小血管を除きほとんど発現していないが、炎症性サイトカインにより迅速に誘導される1)

    セレクチンは、Lectinドメイン→ EGF様ドメイン複数のコンセンサスリピート膜貫通部細胞質尾部というサブタイプ間で高い相同性を示す共通の構造を持ち、この部位に類似した糖鎖構造が結合する。膜貫通部と細胞質尾部は長さや配列がサブタイプ間で大きく異なり、これが細胞内シグナル伝達等の差異を生んでいる。また、種間においても高い相同性を示し、糖を結合するレクチン領域が最も保存されていることが明らかにされている2。一方、通常、種間で高度に保存される細胞質領域と膜貫通領域が、セレクチンでは保存されていない。

    セレクチンの役割

    セレクチンは細胞間、あるいは免疫細胞と細胞外マトリックスの標的細胞成分との間の分子の接着を制御する接着分子の一つであり、自然免疫系の細胞、Tリンパ細胞、血小板の輸送に深く関与している1)L-セレクチンは好中球・単球・ナイーブリンパ球に恒常発現しており、高内皮細静脈 (HEV) 上の糖鎖リガンドと結合して二次リンパ組織へのホーミングを担っている3)P-セレクチンは血小板 α顆粒と内皮 Weibel-Palade小体に貯蔵され、トロンビンやヒスタミンなど細胞が活性化されるとすぐに細胞表面に輸送され、損傷部位で白血球を捕捉する役割を担っている4)E-セレクチンは平常時ほとんど発現していないが、IL-1βTNF-αなどの炎症性サイトカインの刺激後 4–6 時間で発現し、好中球・単球の炎症部位へ選別輸送する5)。これらの発現の場所の違いや時間差によりにより「ローリング徐停止強固接着組織浸潤」という白血球遊走カスケードが成立し、精密に制御されている6)

    セレクチンに関連する薬剤の開発状況

    セレクチンは炎症と感染、がん等病態発生時に様々な役割が報告されている。そのため、セレクチン‐糖鎖相互作用の遮断は、血栓・炎症・腫瘍転移を抑える新規治療戦略として注目され開発が進んでいる。本邦では未承認であるが、P-セレクチン阻害抗体 crizanlizumab は鎌状赤血球症 (SCD) の血管閉塞性疼痛発作 (VOC) を減少させ、2019 年に米国 FDA 承認されている。同系統の inclacumab E-/P-セレクチン阻害薬であるrivipansel VOCに対して、E-セレクチン拮抗薬 uproleselan は急性骨髄性白血病 (AML) に対して開発が行われており、今後も開発が期待されている。

     

    引用文献

    1) Kansas GS.Blood 88:3259-3287, 1996.

    2) Klaus L. Trends Mol Med. 9:263-268, 2003.

    3) Gallatin WM et al. Nature 304:30-34, 1983.

    4) McEver RP et al. PNAS 86:434-438, 1989.

    5) Bevilacqua MP et al. Science 243:1160-1165, 1989.

    6) Zarbock A et al.. Blood 118:6743-6751, 2011.

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