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線溶療法・血栓溶解療法 fibrinolytic therapy, thrombolytic therapy
解説
【概要】
線溶系は線溶系活性化系と線溶系抑制系からなり、生理的範囲内では抑制系優位であるが、このバランスが極端に傾かないように制御されていて、止血系の一環として作用する。血栓が血管内に出来ると、それを除去するため線溶系が作用する。この反応をサポートするのが血栓溶解療法で、血栓溶解反応開始酵素であるプラスミノゲンアクチベータ(PA)を投与して線溶系を線溶活性化系優位にさせ、血栓を溶解する。
【液相中での反応】
流動的な血液中での線溶反応はプラスミンを生成させる系であり、PAがプラスミノゲンに作用して惹起される。プラスミンもPAも酵素であり、それぞれ特異的インヒビタ-であるα2プラスミンインヒビター(α2PI)、およびプラスミノゲンアクチベータインヒビター(PAI)により即時的に失活する。
【固相中での反応】
血液という液相中での線溶反応とは対照的に、血管内で生じた血栓という固相上では、線溶反応の「おもむき」が異なる。すなわち、血栓の主な構成タンパクであるフィブリン上でプラスミノゲンが組織型プラスミノゲンアクチベータ(tPA)によってプラスミンに活性化され、プラスミンがフィブリンを切断する。その際、部分分解されたフィブリンのC末端にリジンが露出し、プラスミノゲンとtPAがクリングル領域を介して結合して3量体を形成する。これがフィブリン上でのプラスミン産生を著しく増強し、生じたプラスミンがフィブリン分解を促進する。
またフィブリンという固相上で生じたプラスミンは、その分子内のリジン結合部位(LBS)がフィブリン結合に利用されているので、プラスミンのインヒビターであるα2PIの作用を受けず、結果的にフィブリンを効率的に分解できる。これにより血栓溶解が加速的に進行する。
【適応】
1.急性冠症候群
発症後12時間以内が線溶療法の適応時間である。その際、1)冠動脈造影により血栓を確認することが望ましい。また、2)冠動脈血栓の溶解後に血流が再開通すると、再灌流不整脈があらわれることがあるので、直ちに適切な処置が必要である。
2.脳血栓塞栓症
発症(あるいは発症していなかったことが確認された最終時刻)から4.5時間以内に治療開始が可能である。以前はPAの投与が発症後3時間以内までとされていたが、多くの治験から4.5時間以内に時間枠を拡大しても死亡率を悪化させることなく良好な転帰率が向上したことから、我が国でも2012年に4.5時間になった。
3.急性肺血栓塞栓症
ヘパリン投与による抗凝固療法を行うと共に肺動脈造影によって血栓・塞栓による血流障害を確認することが大切である。
【禁忌】
線溶療法の禁忌には、各種出血性疾患の既往、大きな手術の術後、血小板減少症や抗凝固療法、出血傾向あるいは分娩、月経や高齢などがあげられている。
参考文献
1) 松尾理:線溶反応,冨山佳昭,血栓・止血異常の診療.中山書店,2014.