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線溶療法・血栓溶解療法 fibrinolytic therapy, thrombolytic therapy
解説
【血栓溶解療法とは】
病的な血栓により閉塞した血管を、線溶系を活性化することで血栓を溶解・除去し、途絶した血流を再開させる治療法である。抗凝固療法を行うことで、内因性の線溶反応を相対的に促進する場合も「血栓溶解療法」と記載している文献等も眼にするが、本来の血栓溶解療法ではない。
【線溶反応の基礎】
血栓が形成されると、生体反応として線溶系の活性化が惹起される。線溶活性化で生成されたプラスミンは適切な速度でフィブリンを分解し、最終的に血栓は除去される。プラスミンはプラスミノゲンがプラスミノゲンアクチベータ(PA)によって活性化されるが、特に組織プラスミノゲンアクチベータ(tPA)によるプラスミン生成は、フィブリン表面で起きる。一方、線溶反応はPAI-1がPAを、α2-PIがプラスミンをそれぞれ不活化することによって制御されている。特にα2-PIは流血中に遊離したプラスミンを不活化することで線溶反応をフィブリン表面に限局化し、また凝固XIII因子を介してフィブリン血栓内に取り込まれプラスミンによるフィブリン分解速度を制御している。その他TAFIによる線溶反応の制御機構も存在する。
【血栓溶解療法と線溶反応】
血栓溶解療法はtPA(もしくはウロキナーゼ)を投与することで、病的血栓表面での線溶反応を促進する治療法である。tPAはフィブリン親和性が高く、またフィブリンによる活性上昇があるため、現在の血栓溶解療法の主な薬剤として使用されている。一方ウロキナーゼはフィブリン親和性が必ずしも高くなく、また製剤としての供給の問題もあり、現在では血栓溶解療法の主役ではない。十分な量のPAを投与することでPAI-1の不活化能を超えた状況でプラスミン生成を惹起し病的血栓を溶解する。しかし、同時に生理的な止血血栓表面上でも線溶活性化が惹起される可能性があるため、出血性の合併を呈する場合もある。また過剰に産生されたプラスミンはα2-PIの低下を招く場合もあり、この場合、流血中での線溶反応のため低フィブリノゲン血症の合併や、プラスミンによる正常な血管内皮細胞傷害が惹起される場合もあり、これらの病態もまた病的な出血に関与する場合もある。このため血栓溶解療法は、血栓除去によるメリットと出血性合併症のデメリットのバランスによって適応等が規定される。
【適応症】
1.急性冠症候群(1)
現在では経皮的冠動脈インターベンション(PCI)が治療の第一選択として推奨されている。このため血栓溶解療法は、離島などPCI施設から遠隔の場合やPCI施行までに時間がかかる場合などに考慮される。血栓溶解剤の静脈投与は発症12時間以内でかつ診断から2時間以内にPCIが施行できないときに推奨されている(ただし薬剤の添付文書上は「発症後6時間以内の投与」となっている)。
2.脳血栓塞栓症(2)
発症から4.5時間以内の治療開始が推奨されている。治療開始時間は早いほど良い。発症時刻が不明な場合は、最終健常確認時刻をもって発症時刻とするが、MRI所見などで発症4.5 時間以内の可能性が高いと判断される場合は、治療が考慮される。
3.急性肺血栓塞栓症(3)
血行動態が安定した右心機能不全の肺血栓塞栓症に対する血栓溶解療法はルーチンに行わず,出血リスクが低い若年者や,抗凝固療法を開始するも循環動態が悪化する徴候がみられる場合に考慮するのが妥当と考えられている。
【使用可能な薬剤】
2025年5月時点で下記の製剤が保険収載されている。製剤ごとに適応症例がことなる。すべて「生物由来製品」である。
tPA製剤
アルテプラーゼ(遺伝子組換え)
虚血性脳血管障害急性期に伴う機能障害の改善(発症後4.5時間以内)。
急性心筋梗塞における冠動脈血栓の溶解(発症後6時間以内)。
モンテプラーゼ(遺伝子組換え)
急性心筋梗塞における冠動脈血栓の溶解(発症後6時間以内)
不安定な血行動態を伴う急性肺塞栓症における肺動脈血栓の溶解
uPA製剤
ウロキナーゼ
急性心筋梗塞における冠動脈血栓の溶解
(2025年5月現在供給が不安定な状態であり、今後の安定供給再開の目処も立っていない)
【禁忌】
線溶療法の絶対禁忌や相対禁忌には、大手術の術後や出血性疾患の既往、血小板減少症、抗凝固療法、出血素因の合併、妊娠出産、月経や高齢など、予後に関連する出血のリスクが高い場合があげられている。
引用文献
(1) 日本循環器学会:急性冠症候群ガイドライン(2018 年改訂版). https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/11/JCS2018_kimura.pdf(2025.4.21アクセス)
(2) 静注血栓溶解(rt-PA)療法 適正治療指針 第三版. https://www.jsts.gr.jp/img/rt-PA03.pdf(2025.4.21アクセス)
(3) 2025年改訂版 肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症および肺高血圧症に関するガイドライン. https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2025/03/JCS2025_Tamura.pdf(2025.4.21アクセス)