大分類
  • 線溶
  • 小分類
  • 治療
  • 脳血栓塞栓症と線溶療法 fibrinolytic therapy in cerebral thromboembolism

    2022/07/04 更新
    2015/02/17 作成

    解説

    【概要】
    血栓性および塞栓性機序によって閉塞された脳血管を、血栓を溶解することによって再開通させ、血管支配領域の神経細胞が壊死に陥るのを防ぐのが線溶療法である。虚血性脳血管障害超急性期の線溶療法は、奏功すれば転帰改善効果が高い反面、不適切な適応判断や不注意な患者管理が症候性頭蓋内出血などの危険性を高め、かえって重篤となる場合もある

    【血栓溶解療法の基礎】
    脳血流が低下すると、神経細胞には虚血の程度と持続時間に応じた可逆性の細胞機能障害や非可逆性の細胞死が起こる。虚血によって細胞機能障害に陥っているものの、細胞死には至っていない神経細胞が存在する低灌流領域をペナンブラと呼ぶ。虚血性脳血管障害の超急性期には壊死に陥った虚血中心の周囲にペナンブラが存在し、発症後の時間経過ともに壊死に陥ると考えられている。壊死に陥る前にペナンブラの血流が再開すれば、細胞機能が正常に回復し、臨床転帰が改善することが期待される。ただし、虚血による内皮傷害は、再灌流時に症候性頭蓋内出血を引き起こし易くする。このため、線溶療法の適応は、再灌流によって改善しうる組織の可逆性と、症候性頭蓋内出血のリスクから総合的に判断する。

    【治療の実際】
    線溶療法は、一定条件で経動脈的な選択的局所投与が考慮されることもあるが、静脈内投与が一般的である。

    静注血栓溶解療法は、発症後4.5時間以内に治療可能な虚血性脳血管障害が対象となり、臨床病型は問わず、神経症候、画像や臨床検査から適応を判断する。虚血性脳血管障害急性期の適応で承認されている血栓溶解薬は、遺伝子組み換え組織型プラスミノゲン・アクティベータ(rt-PA、アルテプラーゼ)のみである。アルテプラーゼ0.6 mg/kg の10%を急速投与し、残りは 1 時間かけて静注する。治療開始後24時間は、基本的には抗血栓療法を行わない。

    【ポイント】 
    1)日本脳卒中学会から出されている適正治療指針を遵守する。使用基準を遵守しないと、症候性頭蓋内出血の危険性が著しく増大する。

    2)治療適応は、承認当初は発症後3時間以内であったが、2012年に5 時間以内へと拡大された。ただし、発症から再開通までの時間が短いほど良好な転帰が期待できるため、可及的早期(遅くとも来院1時間以内)に治療を開始する。

    3)画像診断も駆使してペナンブラの存在や症候性頭蓋内出血の危険性を評価する。ガイドラインでも、発症時刻が不明な時、MRI所見を用いて適応を考慮しても良いとされるなど、治療可能時間枠(therapeutic time window)が徐々に拡大されてきている。

    4)アルテプラーゼ静注療法の治療効果は血管閉塞部位により異なり、脳主幹動脈閉塞に対する効果は限定的である。

    【お役立ち情報】
    1)アルテプラーゼの改変によりフィブリン特異性が高く、半減期が長く、急速静注が可能となったテネクテプラーゼは、海外の試験でアルテプラーゼよりも高い再開通率と転帰良好率が示された。海外ではテネクテプラーゼの使用が増えており、アルテプラーゼの製造縮小や中止が懸念されている。わが国にはテネクテプラーゼを扱う製薬企業がないことから、テネクテプラーゼの国内での臨床応用を目指した医師主導多施設共同無作為化比較試験が行われている。
    2)脳主幹動脈急性閉塞に対する機械的血栓回収療法も含めた脳梗塞超急性期再開通治療の進歩は目覚ましく、短期間で治療指針の改訂が行われている。

    参考文献

    1) 日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会編.脳卒中治療ガイドライン2021.協和企画.2021

    2) 静注血栓溶解(rt-PA)療法 適正治療指針 第三版(2019年3月).日本脳卒中学会ホームページhttps://www.jsts.gr.jp/img/rt-PA03.pdf

    3) 日本脳卒中学会、日本脳神経外科学会、日本脳神経血管内治療尾学会.経皮経管的脳血栓回収用機器 適正使用指針 第4版(20203月)https://www.jsts.gr.jp/img/noukessen_4.pdf