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血管内皮細胞プロテインC受容体(EPCR) endothelial cell protein C receptor
解説
プロテインC経路は主要な血液凝固系の制御メカニズムのひとつである。血液凝固経路の作動時において、血管内皮上に形成されるトロンビンとトロンボモジュリン(TM)複合体により、プロテインCが活性化される。活性化プロテインC(activated protein C: APC)は活性化血液凝固第VIIIa因子(VIIIa)およびVaを分解して不活化することにより、血液凝固反応を抑制制御する。血管内皮細胞プロテインC受容体(EPCR)は、この活性化反応を著しく促進する活性を有する。EPCRはプロテインCに対する高親和性の特異的受容体であり、大血管で特に強く発現している(CD201)。EPCRは、免疫系のCD1/MHCクラス1分子群に相同性を有する1型膜貫通糖タンパク質であり、283アミノ酸残基からなる(1)。
血液凝固因子VII/VIIaもまたGlaドメインを介してEPCRと結合することが明らかとなっている。血友病モデルマウスにおいて、その結合がFVIIaの凝固活性を促進することが、in vivoで示された。FVIIaとの結合における生理的および病的意義のこれからの解明が期待される(2)。
EPCRにはプロテインCのみならずAPCも結合する。EPCRと複合体を形成したAPCはPAR-1を活性化してMAPキナーゼ経路を経由して、抗炎症作用のあるmonocyte chemoattractant protein-1 (MCP)の発現を誘導する。MCP-1はT細胞、マスト細胞、好塩基球を遊走させるC-Cケモカインの一種である。また、低酸素状態において誘導される血管内皮細胞のアポトーシスは、EPCRに結合したAPCがPAR-1を切断することでシグナル伝達が誘導されて、低酸素状態で引き起こされるp53の発現誘導が起こらなくなり、抑制される(3)。このような結果から、EPCRが抗凝固機能以外の活性をもつことが示唆される。
また、最近重症マラリアとEPCRの関連が示唆された。熱帯熱マラリア原虫のdomain cassettes (DC) 8および13を含むP. falciparum erythrocyte membrane protein 1 (PfEMP1)は、重症マラリアとの関連が知られており、PfEMP1の受容体としてEPCRが同定された。このことは、マラリア病理の解明や新しいマラリア治療法の開発につながるだろう(4)。
引用文献
1) 福留健司:血管内皮細胞における抗血栓性,最新医学 55(2):168-176,2000.
2) Pavani G, Ivanciu L, Faella A, Marcos-Contreras OA, Margaritis P: The endothelial protein C receptor enhances hemostasis of FVIIa administration in hemophilic mice in vivo. Blood, 2014 in press.
3) 福留健司:EPCR最近の話題,日本血栓止血学会誌 14(6):511-513, 2003.
4) Turner L, Lavstsen T, Berger SS, Wang CW, Petersen JE, Avril M, Brazier AJ, Freeth J, Jespersen JS, Nielsen MA, Magistrado P, Lusingu J, Smith JD, Higgins MK, Theander TG: Severe malaria is associated with parasite binding to endothelial protein C receptor. Nature 498(7455): 502-5, 2013.