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凝固第V因子ライデン・プロトロンビンG20210A Factor V Leiden・Prothrombin G20210A
解説
【概要】
Factor V LeidenとProthrombin G20210Aは、欧米における遺伝性血栓性素因である。それぞれ、欧米において高頻度で検出される遺伝子バリアント(SNP:Single Nucleotide Polymorphism)であるが、日本人からは検出されない。
Factor V Leiden(FV R506Q)は、凝固第V因子(FV)の活性化プロテインC(APC)による主要な開裂部位のArg506がGlnに置換するFV遺伝子(F5)のミスセンス変異で、FV Gln506異常分子がAPCに対する抵抗性(APCレジスタンス:APCR)の原因として発見されたSNPである。
Prothrombin G20210Aは、プロトロンビン遺伝子(F2)の3’非翻訳領域のG(グアニン)がA(アデニン)に置換するSNPである。Prothrombin G20210Aの位置は、F2 pre-mRNAのポリA tailが結合する付近にあり、この変異によりpre-mRNAが安定化することが推測され、血漿プロトロンビン濃度が上昇し、静脈血栓性素因となると考えられている。
【病態・病因】
(Factor V Leiden)
1993年Dahlbäckらが、多数の原因不明の血栓症患者の血漿検体に、過剰のAPCを加えても、軽度の活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)延長しかみられない現象を発見し1)、APCの反応性に抵抗性を示す表現型として、APCレジスタンス(APCR)という病態概念を提唱した2) 。翌年Bertinaら3)は、APCRの原因がFVのAPCによる主要な開裂部位のArg506がGlnに置換したFV異常分子のFactor V Leiden変異(FV R506Q変異)であることを解明した(NM_000130.4(F5):c.1601G>A(p.Arg534Gln)(rs6025)。Factor V Leidenは、FV活性はあるが、APCによる活性型FV(FVa)の不活性化が阻害されるため、トロンビン産生が抑制されず血栓症を発症すると考えられている。APCRの原因はFV R506Q変異であるが、APCRの病因としてFV R506Q以外に、高頻度ではないけれども幾つかのFV遺伝子(F5)変異が発見されている。
北欧の研究では、Factor V Leiden変異(FV R506Q)の保持者は、静脈血栓症の発生リスクが、変異の非保持者よりも5~7倍も顕著に高いことが知られている4)。通常は、深部静脈血栓症(DVT)と肺塞栓症(PE)は静脈血栓塞栓症(VTE)として一つの疾患概念になっているにもかかわらず、複数の研究から、Factor V Leiden変異保持者ではDVTの発生リスクは顕著に高いが、それに比較して、PEの発生リスクが低いことがわかっている。この現象を「Factor V Leiden Paradox」4)と呼んでいる。
(Prothrombin G20210A)
1996年Poortらが5)、28家系の原因不明の静脈血栓症患者のプロトロンビン遺伝子(F2)解析を行い、5人の発端者に、F2の3’非翻訳領域にグアニン(G)からアデニン(A)の遺伝子バリアントをヘテロ接合体で検出し、静脈血栓症の病因として報告した(NM_000506.5(F2):C.*97G>A)(rs1799963)。Prothrombin G20210A変異は、プロトロンビン合成を増加させ、血栓症を発症させると考えられている。この変異は、mRNAの安定性と翻訳効率が増加し、血漿プロトロンビン濃度の上昇(hyperprothrombinemia)を引き起こすと考えられている。このように、Prothrombin G20210A変異は過凝固状態に寄与する可能性があるものの、動脈血栓症とは関連性が低く、欧米では静脈血栓塞栓症発症の遺伝的リスクの一つのSNPとして報告されている。
しかし、近年の大規模な研究6)では、Prothrombin G20210A変異のヘテロ接合体保持者の血栓症発症リスクが非保持者の約5倍、Factor V Leiden変異とProthrombin G20210A変異の両方の保持者が約6倍であることが結論付けられたことから、静脈血栓塞栓症に関する推奨事項で、成人で原因不明の静脈血栓塞栓症を発症した患者におけるProthrombin G20210A変異の遺伝学的検査は推奨されていない。
【疫学】
北米での研究6)によると、Factor V Leiden変異は白人の約5%が保持している。Factor V Leiden変異のヘテロ接合体保持者は、非保持者に比較して血栓症発症リスクが4~8倍に増加し、Factor V Leiden変異のホモ接合体保持者は血栓症発症のリスクが約80倍に増加することが、多くの研究から報告されている。静脈血栓症の獲得リスク因子(喫煙、エストロゲン含有ホルモン避妊薬の使用、妊娠、外科手術など)や、他の血栓性素因が重複してある場合には、さらにDVT発症リスクが増加する。
北米での研究によると、Prothrombin G20210A変異は白人の約2%が保持している。Prothrombin G20210A変異のヘテロ接合体保持者は、非保持者に比較して血栓症発症リスクが3~4倍に増加する。
【検査と診断】
Factor V Leiden保持者は、一般的には血漿FV活性は低値を示さないので、APTTに基づいたAPCR測定法によりスクリーニングを行う。診断としては、F5の遺伝学的検査を行う。
Prothrombin G20210Aは、血漿プロトロンビン濃度は上昇すると考えられるが、血漿プロトロンビン測定はスクリーニング検査としては使用できない。この理由としては、プロトロンビン濃度の正常上限と保持者における濃度範囲が重なって評価ができないことによる。診断としては、F2の遺伝学的検査を行う。
引用文献
1) Dahlbäck B, Carlsson M, Svensson PJ. Familial thrombophilia due to a previously unrecognized mechanism characterized by poor anticoagulant response to activated protein C: prediction of a cofactor to activated protein C. Proc Natl Acad Sci U S A. 90(3):1004-8, 1993.
2)Svensson PJ, Dahlbäck B. Resistance to activated protein C as a basis for venous thrombosis. N Engl J Med. 24;330(8):517-22, 1994.
3)Bertina RM, Koeleman BP, Koster T, Rosendaal FR, Dirven RJ, de Ronde H, van der Velden PA, Reitsma PH. Mutation in blood coagulation factor V associated with resistance to activated protein C. Nature. 369(6475):64-7, 1994.
4)Bounameaux H. Factor V Leiden paradox: risk of deep-vein thrombosis but not of pulmonary embolism. Lancet. 356(9225):182-3, 2000.
5)Poort SR, Rosendaal FR, Reitsma PH, Bertina RM. A common genetic variation in the 3′-untranslated region of the prothrombin gene is associated with elevated plasma prothrombin levels and an increase in venous thrombosis. Blood. 88(10):3698-703, 1996.
6)Lo Faro V, Johansson T, Johansson Å. The risk of venous thromboembolism in oral contraceptive users: the role of genetic factors-a prospective cohort study of 240,000 women in the UK Biobank. Am J Obstet Gynecol. 230(3):360.e1-360.e13, 2024.
参考文献
1)Segers K, Dahlbäck B, Nicolaes GA. Coagulation factor V and thrombophilia: background and mechanisms. Thromb Haemost. 98(3):530-42, 2007.
2)Nogami K, Shinozawa K, Ogiwara K, Matsumoto T, Amano K, Fukutake K: Novel FV mutation (W1920R, FV Nara) associated with serious deep vein thrombosis and more potent APC resistance relative to FV Leiden. Blood 123: 2420-2428, 2014.
3)篠澤圭子,野上恵嗣:Factor V がいよいよ面白くなってきた:血栓症をおこしたFV NARA変異とAPCレジスタンス,日本血栓止血学会誌 25:482-493, 2014.