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Gas6 (growth arrest-specific gene 6 product)
解説
Growth arrest-specific gene 6 product(Gas6)は,プロテインSと相同性の高いビタミンK依存性タンパク質でTyro3(Sky)/Axl/Mer(TAM)レセプターのリガンドである.その遺伝子はNIH3T3細胞の増殖停止時に特異的に発現される遺伝子として見いだされた.
【分子量】
Gas6は678個のアミノ酸残基からなる.分子量は約80 kDaである.
【血中濃度】
血中濃度はnM以下である.
【構造と機能】
プロテインSと相同性が高く,アミノ酸で4割に及ぶ.N末端からGlaドメイン,EGF様ドメイン,sex hormone-binding globulin(SHBG)様ドメインを持つ(図1).GlaドメインはGas6の活性を調節していると考えられている.Gas6中にトロンビンで切断される部位は存在しない.Tyro3,Axl,Merのレセプター(図2)は親和性や発現している細胞が多岐にわたるため、Gas6の生体内機能も多彩である.代表的なものに増殖因子としての役割やアポトーシス細胞の認識,炎症反応の抑制などがある.血栓止血領域に関わる機能に目を向けると,血管平滑筋細胞ではトロンビンによる増殖の強化,アポトーシス抑制,細胞移動誘因などがあり,血管の修復・維持あるいは動脈硬化病変の形成に関わっている可能性がある.血小板ではGas6はα顆粒に存在しており,活性化に伴い放出され,血小板表面のTAMレセプターを介して脱顆粒反応を促進している.
【ノック・アウトマウスの表現形】
出生率はメンデル則に従い,致死などはなく,正常に成長する.行動や発育状態,繁殖力にも異常を認めない.通常の状態では出血傾向や血栓傾向は認めない.尾切断後の止血時間にも有意差はなかった.しかしながら,下大静脈結紮モデルでは形成される血栓は85%縮小しており頸動脈の血管表面剥離後の血栓形成でも60%縮小が確認された.コラーゲン・エピネフリン静脈投与後の致死率は80%から20%に低減していた.凝集計により血小板機能を評価するとGas6ノックアウトマウスの血小板は野生型マウスで十分な凝集を起こす濃度のアゴニストでは凝集を認めなかった.一方,高濃度アゴニスト刺激では野生型マウスと同様の凝集を認めた.この変化はPMA,A23187,トロンビンでは認めず,野生型と同等の血小板凝集が確認された.しかしながら,凝集した血小板は粗で,脱顆粒も不十分であった.
【病態との関わり】
感染症やアレルギーなど炎症を伴う病態で血中のGas6の上昇が見られる.血栓止血領域では移植関連血栓性微小血管症や成人呼吸窮迫症候群を伴う敗血症で血中Gas6上昇を認めることが報告されている.
図表
図1.Gas6と受容体TAM 図2.プロテインS,Gas6の構造
参考文献
1) Gas6の欠損マウス,血栓止血誌 12(6):514-521,2001.
2) 血管石灰化の分子機構とその制御,オステオポローシスジャパン 16(2):137-144,2008.
3) 血管石灰化の分子機序,血管医学 9(1):51-56,2008.
4) プロテインS/TAMレセプターを介したアポトーシス細胞のクリアランス,血栓止血誌 23(6):585-587,2012.
5) プロテインC/プロテインSの基礎,血栓止血誌 25(1):40-47,2014.
6) A critical role of the Gas6-Mer axis in endothelial dysfunction contributing to TA-TMA associated with GVHD. Blood Adv. 23;3(14):2128-2143.2019
7) The suppressive effects of Mer inhibition on inflammatory responses in the pathogenesis of LPS-induced ALI/ARDS.Sci Signal.8;15(724),2022
8) Growth arrest-specific (Gas) 6,アレルギー71(1):53-54,2022