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  • 卵円孔開存 patent foramen ovale

    2022/12/15 作成

    解説

    【概要】

    胎児循環では、右心房の血液が心房中隔に開いている孔(卵円孔)を通って左心房へと循環している。卵円孔は生後に自然閉鎖するが、閉鎖せずに小さな裂孔が残存している状態が卵円孔開存(patent foramen ovale: PFO)である。

    【病態】

    PFOは一般剖検で約25%に認められ、一般的には無症状で経過するが、脳梗塞の原因となることがある。深部静脈血栓などに由来する静脈血栓が卵円孔を介して右房から左房に流入し(右左シャント)、脳動脈を閉塞する脳梗塞奇異性脳塞栓症と呼ばれている。

    PFOは、脳梗塞の25%を占める原因不明の脳梗塞(潜因性脳梗塞)の重要な塞栓源の一つで、特に、若年者における原因不明の塞栓性梗塞の最大の原因となっている。しかし、潜因性脳梗塞の約50%にPFOが併存するとされ、PFOの検出された脳梗塞が必ずしも奇異性脳塞栓症とは限らない。PFOに静脈血栓症の併発が認められ、確実に奇異性脳塞栓症と診断されるのは急性脳梗塞の約5%とされている。

    【検査と診断】

    PFOの診断には、経食道心エコー検査により形態を評価するとともに、生理食塩水を撹拌したマイクロバブルを用いた右左シャントの検出を行う。右左シャントのスクリーニングには経頭蓋ドプラー検査も有用である。

    脳梗塞再発リスクが高いPFOの特徴として、孔が大きい、シャント量が多い、心房中隔瘤の合併、下大静脈弁の合併、キアリ網の合併、長いトンネルを有する、安静時でも右左シャントが検出されるなどが挙げられる。また、年齢、高血圧、糖尿病、脳梗塞・一過性脳虚血発作の既往、喫煙、画像検査での皮質梗塞という項目から0〜10点を付けて奇異性脳塞栓症のリスクを評価するRoPEスコアを用いてリスクの層別化を行う。

    PFOを有し塞栓性機序の考えられる脳梗塞で、ラクナ梗塞、アテローム血栓性梗塞、心原性脳塞栓症、大動脈原性脳塞栓症、特殊な原因(血栓性素因や悪性腫瘍など)による脳梗塞が否定される場合に、PFOの関与があり得る潜因性脳梗塞と診断する。

    【治療】

    PFOの関与が疑われる塞栓源不明の脳塞栓症の再発予防には、明確なエビデンスはないものの抗血小板療法または抗凝固療法が妥当とされ、アスピリンが投与されることが多かった。一方、静脈血栓塞栓症が認められる場合や奇異性脳塞栓症と診断される場合には、抗凝固療法が推奨される。静脈血栓塞栓症が認められない場合も、抗血小板療法よりも抗凝固療法の有効性が高い可能性があるが、エビデンスは確立していない。

    また、2017年に奇異性脳塞栓症に対する経皮的卵円孔開存閉鎖術の有効性と安全性が示され、再発リスクの高い特徴を有するPFOや、抗血栓療法中に再発する場合には、原則として60歳未満の患者に対して経皮的卵円孔開存閉鎖術が推奨されている。

    図表

    • PFO
    • PFO

    引用文献

    出典:Cleaveland Clinic HP
    https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/17326-patent-foramen-ovale-pfo

    参考文献

    1) 脳卒中治療ガイドライン2021.日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会(編),協和企画(東京),2021年7月

    2) 潜因性脳梗塞に対する経皮的卵円孔開存閉鎖術の手引き.日本脳卒中学会/日本循環器学会/日本心血管インターベンション治療学会,2019年5月
    https://www.jsts.gr.jp/img/tebiki_seninsei_noukousoku.pdf

    3) 2021年改訂版 先天性心疾患、心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン.日本循環器学会/日本心臓病学会/日本心臓外科学会/日本血管外科学会/日本胸部外科学会合同ガイドライン,2021年3月
    https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2021/03/JCS2021_Sakamoto_Kawamura.pdf