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  • 悪性腫瘍とDIC

    2015/02/17 作成

    解説

    【概要】

     播種性血管内凝固症候群(DIC)の原因には、敗血症を筆頭に数多くの基礎疾患が知られているが、固形癌・造血器腫瘍を合わせると、基礎疾患として悪性腫瘍の占める割合は極めて高い(表)。癌発生母数の関係から、実数としては固形癌が多くなるが、造血器腫瘍ではDIC発症頻度が高く、特に、急性前骨髄性白血病(APL)では70〜80%の症例でDICを合併する1)

    【病態・病因】

     Trousseau症候群に代表されるように、癌患者の血液が過凝固傾向にあり、血栓症を引き起こし易い状態であることが古くから知られている。このような過凝固状態を基盤に、腫瘍そのものによる、及び手術・化学療法や合併症により更なる血液凝固活性化状態や線溶系の修飾が加わり、DICを併発しやすくなるものと考えられる2)。腫瘍細胞が血液中に存在する急性白血病で発生頻度が高くなるが、固形癌でも血流が多いもの、脈管浸潤・転移の強いものなど発症頻度が高い傾向にあり、当然、病期にも左右される。固形癌は主に凝固・線溶の均衡の取れた「線溶均衡型」に、APLやプラスミノゲンアクチベータ産生腫瘍などは過度に線溶が亢進した「線溶亢進型」の病態を呈する。

     癌においてDICが発生する機序として、以下のことが考えられる。(図、図中の数字に対応する)3)
    1) 腫瘍及び腫瘍間質細胞からの凝固促進物質・線溶系物質の産生・放出

    2) 免疫反応及び自己による腫瘍細胞壊死に伴う凝固促進物質・線溶系物質の放出

    3) 腫瘍細胞からのサイトカイン誘導による血管内皮細胞・白血球等から凝固促進物質・線溶系物質の産生

    4) 腫瘍細胞からの血小板活性化因子の放出

    5) 治療、特に化学療法による腫瘍細胞崩壊・血管内皮細胞傷害及び治療薬そのものによる血栓傾向(トラネキサム酸、ATRA、サリドマイド等)

    【診断】
     2014年10月、日本血栓止血学会DIC診断基準作成委員会より、DIC診断基準暫定案が発表され4)、基礎疾患によって診断基準を使い分けることとなり、悪性腫瘍でも「基本型」が適用される固形癌と、頻繁に骨髄抑制・骨髄不全状態を呈する血液悪性腫瘍は造血障害型の診断基準を使用することとなる。

    図表

    • 表:DIC症例数(絶対数)
    • 図:悪性腫瘍におけるDIC発症機序

    参考文献

    1) 中川雅夫:本邦における播種性血管内凝固(DIC)の発症頻度・原因疾患に関する調査報告,厚生省特定疾患血液系疾患調査研究班血液凝固異常症分科会,平成10年研究業績報告書:57-64,1999.
    2) Kawasugi K, Wada H, Hatada T, Okamoto K, Uchiyama T, Kushimoto S, Seki Y, Okamura T, Nobori T; Japanese Society of Thrombosis Hemostasis/DIC Subcommittee: Prospective evaluation of hemostatic abnormalities in overt DIC due to various underlying diseases. Thromb Res 128: 186190, 2011.
    3) Zacharski LR, Wojtukiewicz MZ, Costantini V, Ornstein DL, Memoli VA: Pathways of coagulation/fibrinolysis activation in malignancy. Semin Thromb Hemost 18: 104116, 1992.
    4) 日本血栓止血学会DIC診断基準作成委員会:日本血栓止血学会DIC診断基準暫定案,日本血栓止血学会誌 25(5):629-646,2014.