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  • 感染症と線溶

    2015/02/17 作成

    解説

    【概要】
     凝固・線溶系は止血および創傷治癒だけでなく,血栓形成により感染巣を限局化し、炎症反応を惹起して生体防御に寄与する。外因系凝固カスケードを開始する組織因子(TF)は感染や炎症に伴い血管内皮細胞や単球での発現が高まる。またフィブリノゲンや、線溶系の主要な阻害因子であるプラスミノゲンアクチベーターインヒビター1(PAI-1)は急性相タンパクであり炎症時には血中濃度が増加する。このように生体は感染時には過凝固・低線溶状態となる。
     感染・炎症が広範囲に及ぶと,正常な凝固・線溶系の制御機構が破綻し全身性の血栓傾向が生じる。炎症時あるいは侵襲時の高PAI-1血症も微小循環不全や臓器不全の原因となり、敗血症性播種性血管内凝固症候群時の予後不良因子となっている。実際小児の髄膜炎球菌感染では、PAI-1濃度が高くなりやすい遺伝子多型(4G/4G)の予後が悪い事が示されている。
     感染時には、好中球は貪食による殺菌だけでなく、好中球細胞外トラップ(NETs)と呼ばれるDNAやヒストンで構成される網を放出し細菌を捕獲する事が知られている。これにより好中球は細胞死するが有効な感染防御反応ととらえられている。感染巣周囲ではNETsを含んだ血栓が認められており、フィブリン単独で構成される血栓に比べ溶解抵抗性であると報告されている。これも播種防御に寄与すると考えられる。

    【機構】
     病原微生物の中には逆に線溶酵素を産生してその防衛線を突破するものがある。A群溶連菌は,主にヒトの皮膚あるいは咽頭,扁桃炎など局所の炎症を引き起こすとともに,猩紅熱や産褥熱などの全身性炎症を惹起する。播種にはA群溶連菌が産生するストレプトキナーゼ(SK)が関わる。SKはヒトプラスミノゲンを活性化しフィブリンを溶解するが、マウスプラスミノゲンとは反応しない。野生型マウスでは全身性の播種は起こさないが、ヒトプラスミノゲンを発現させた遺伝子組換えマウスにA群溶連菌を接種すると,全身に播種するとともに致死率が有意に上昇した。A群溶連菌はSKを介して発現した線溶活性により感染部位周囲の微小防御血栓が溶解し全身性に播種したと考えられる。ペスト菌感染についても同様の報告があり、致死率の高い肺ペストの感染確立にはペスト菌の産生するプラスミノゲン活性化因子が関与するとされる。

    参考文献

    1) Sun H, Ringdahl U, Homeister JW, Fay WP, Engleberg NC, Yang AY, Rozek LS, Wang X, Sjöbring U, Ginsburg D: Plasminogen is a critical host pathogenicity factor for group A streptococcal infection. Science 305: 12831286, 2004.
    2) Westendorp RG, Hottenga JJ, Slagboom PE: Variation in plasminogen-activator-inhibitor-1 gene and risk of meningococcal septic shock. Lancet 354: 561563, 1999.