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  • 外傷性凝固障害 Trauma-induced coagulopathy

    2022/01/11 作成

    解説

    【背景】

    外傷性凝固障害(Trauma-induced coagulopathy, TIC)とdisseminated intravascular coagulation(DIC)に関して、国際血栓止血学会(International Society on Thrombosis and Haemostasis, ISTH)Scientific Subcommittee on DIC, Fibrinolysis, Perioperative and Critical Care Thrombosis and Hemostasisにおいて2017年から3年に渡る議論が、血栓止血学、外傷外科学、救急医学の専門家の間で行われた。この結果に基づき、ISTH SSCからTICDICに関する国際合意が公表された1)TICは外傷自体が引き起こす一次性凝固障害(DIC)と貧血、希釈、低体温、アシドーシス等に起因する二次性凝固障害を包含する概念である。TICは病態の重症化に伴いDICへ移行し多臓器機能障害から症例の予後を不良とするが、この過程を二次性凝固障害が修飾する1)(図1)。DICは外傷後数時間は線溶亢進型であり、その後、線溶抑制型DICへ移行する1)

    【病態】

    外傷後の生理的凝固線溶反応は、血管内皮細胞傷害、組織因子露出、血小板活性化・凝集、トロンビン産生による外因系凝固反応活性化に始まる。これに引き続き、二次線溶活性化が起こり、D-ダイマーの上昇が認められる。しかし、二次線溶亢進が持続すると再出血の危険が生じるため、プラスミノゲンアクチベータインヒビター1PAI-1)による線溶抑制状態となり、上昇していたD-ダイマーの低下が認められる。時間経過とともに血管内皮および組織の修復が完成すると、止血のためのフィブリン血栓は不要であるためにPAI-1活性は低下し、二次線溶再活性化状態となる。生理的凝固線溶反応として、このようなダイナミックな変動が受傷後37日間にわたり認められる2,3)(図2
    重症外傷患者では、トロンビン産生亢進と同時に受傷直後に線溶亢進が著明となることにより過剰線溶状態が発現し、著しい出血傾向が認められる。増加したトロンビン産生およびショックに伴う組織低灌流による低酸素が、血管内皮細胞Weibel-Palade小体から組織型プラスミノゲンアクチベータを遊離して線溶亢進に関与するとされるが、明確なメカニズムは明らかでない。この線溶亢進病態に、蘇生による希釈・アシドーシス・低体温、さらに、外傷による炎症反応と抗血栓薬服用などの既存因子の相互作用として発現し、出血症状を前面とした臨床病態がみられる。重症外傷患者に対する治療では、この線溶亢進を抑制するためのトラネキサム酸投与、先制的凝固因子補充、そして、希釈性凝固障害の回避が重要な治療戦略となる。

    図表

    • Trauma-induced coagulopathyはDICを包含し、病態の重症化に伴いDICへ移行する。

    引用文献

    1) Moore HB, Gando S, Iba T, Kim PY, Yeh CH, Brohi K, Hunt BJ, Levy JH, Draxler DF, Stanworth S, Görlinger K, Neal MD, Schreiber MA, Barrett CD, Medcalf RL, Moore EE, Mutch NJ, Thachil J, Urano T, Thomas S, Scărlătescu E, Walsh M; Subcommittees on Fibrinolysis, Disseminated Intravascular Coagulation, and Perioperative and Critical Care Thrombosis and Hemostasis. Defining trauma-induced coagulopathy with respect to future implications for patient management: Communication from the SSC of the ISTH. J Thromb Haemost. 2020 Mar;18(3):740-747.

    2) 久志本 成樹, 工藤 大介, 川副 友. 外傷急性期凝固異常:acute traumatic coagulopathy trauma-induced coagulopathy. 血栓止血誌 2016;27:399-40

    3) Kushimoto S, Kudo D, Kawazoe Y. Acute traumatic coagulopathy and trauma-induced coagulopathy: an overview. Journal of Intensive Care 2017;5:6.