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  • トラネキサム酸・イプシロンアミノカプロン酸 tranexamic acid (TXA) ・ epsilon aminocaproic acid (EACA)

    2015/02/17 作成

    解説

    1)開発経緯と構造
     イプシロンアミノカプロン酸(EACA)、トラネキサム酸(TXA)はともに天然のアミノ酸、リジンに類似した構造を有する合成プラスミン阻害剤である。岡本らによってEACAはプラスミン(線維素溶解酵素)によるフィブリン(線維素)溶解を阻害することが明らかにされ[1] 、1954年、EACAは世界初の抗プラスミン剤として承認・発売された(イプシロン®)。次いで岡本らはEACAよりさらに10倍強力な抗プラスミン作用を示すトランス-4-アミノメチルシクロヘキサン-1-カルボン酸 (トラネキサム酸)を開発し [2]、それは1965年、抗プラスミン剤(トランサミン®)として承認・販売され、現在に至っている。

    2)作用機序
     TXAおよびEACAはプラスミノゲンのリジン結合部位(LBS)に結合することにより、リジン残基を介したプラスミノゲンのフィブリンへの結合を阻害する。フィブリン上でのプラスミノゲンアクチベータによるプラスミノゲンの活性化を阻害することによりフィブリン分解を防ぎ、止血作用を発揮する。また、プラスミンは血管透過性の亢進、アレルギーや炎症性病変等に関与することが知られており、抗プラスミン剤はこれらのプラスミン作用を阻止することにより抗アレルギー・抗炎症作用を示す[3,4]。
    3)主な適応
    止血作用:全身性線溶亢進が関与すると考えられる出血傾向(白血病、再生不良性貧血、紫斑病等、及び手術中・術後の異常出血)、ならびに局所線溶亢進が関与すると考えられる異常出血(肺出血、鼻出血、性器出血、腎出血、及び手術中・術後の異常出血)に使用される[4]。近年、外傷性出血患者の死亡リスクを低減させることが報告された [5]。

    抗アレルギー・抗炎症作用:湿疹及びその類症、蕁麻疹、薬疹・中毒疹における紅班・種張・そう痒等、扁桃炎、咽喉頭炎における咽頭痛・発赤・充血・種張等、口内炎および歯肉炎における口内粘膜アフターに使用され[4]、最近では市販の風邪薬、歯磨き、また化粧品にも成分として配合されている。

    4)用法および用量
     TXAとして、通常成人1日750~2,000 mgを3~4回に分割し経口投与する。もしくは成人1日250~500 mgを1~2回に分割し静脈内または筋肉内投与する[4]。2007年、本邦におけるEACA注射剤および顆粒の販売は終了している。

    5)副作用および使用上の注意
     重篤な副作用は認められておらず、安全な医薬品と考えられている。使用上の注意として、トロンビンでの局所止血治療を受けている患者では禁忌、血栓症、播種性血管内凝固症候群(DIC)、術後の臥床状態にある患者及び圧迫止血の処置を受けている患者、腎不全の患者等には慎重に投与する必要がある[4]。適応外であるDICに対する使用上の注意として「科学的根拠に基づいた感染症に伴うDIC治療のエキスパートコンセンサス」(日本血栓止血学会学術標準化委員会DIC部会)は、顕著な線溶活性化を伴った非感染性DIC症例に対する抗線溶療法(必ずヘパリン類の併用)は、重症の出血症状に対して有効な場合がある、としながら、感染症DICについては有効性を疑問視する見解を述べている。さらに、DICに対する抗線溶療法は全身性血栓症や突然死の報告があるとし、DIC専門家へのコンサルトができない場合は安易に行うべきではない、としている。

    図表

    • EACA、TXAの構造図

    参考文献

    1) Okamoto S, et al.: Keio J Med 8: 247-266, 1959.
    2) Okamoto S, Okamoto U: Keio J Med 11: 105-115, 1962.
    3) 第十六改正日本薬局方解説書,廣川書店,2011.
    4) 医薬品インタビューフォーム 2013年11月改訂.
    5) Roberts I, et al: Br Med J 345: 5839-5847, 2012.
    6) 日本血栓止血学会学術標準化委員会 DIC 部会,科学的根拠に基づいた感染症に伴うDIC治療のエキスパートコンセンサス,血栓止血誌 20(1):77-113, 2009.