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凝固第V因子 coagulation factor V
解説
【概要】
【分子量・半減期・血中濃度】
凝固第V因子は分子量約330KDaの一本鎖糖タンパク質として主に肝臓で合成され、濃度約7μg/mℓ(20nM)、半減期約12-15時間で血中に存在する。血小板α顆粒、巨核球、単球、内皮細胞などにも存在し、巨核球においても合成されると考えられている。
【構造と機能】
凝固第V因子は, 凝固第VIII因子やセルロプラスミンなどの銅結合性タンパク質と共通ドメイン構造(A1-A2-B-A3-C1-C2)をとる。トロンビンや活性型第X因子(FXa)により、凝固第V因子のArg709、Arg1018、Arg1545が限定分解を受けてBドメインが除去され, H鎖(A1-A2)とL鎖(A3-C1-C2)が Ca2+を介して結合した活性型凝固第V因子(FVa)となる。活性型凝固第V因子は、活性化プロテインC(APC)によって、そのコファクターであるプロテインS(PS)の存在下で(APC+PS+リン脂質+Ca2+)、活性型凝固第V因子のArg306、Arg506、Arg679が開裂され不活性化される。また、活性化プロテインCが活性型凝固第VIII因子を不活性化する際に、凝固第V因子はプロテインSと結合することによって、活性化プロテインCのコファクターとして抗凝固作用を発揮する。
【ノックアウトマウスの表現型】
凝固第V因子ノックアウトマウス(FV-/-)は全てが致死性であることから、凝固第V因子は必要不可欠な凝固因子であると考えられる。しかし、ヒトにおける重症型凝固第V因子欠損症の場合においては、ほとんどが致命症になっていない。
【病態との関わり】
先天性凝固第V因子欠乏症・異常症は、凝固第V因子遺伝子変異を病因としてひきおこされる、凝固第V因子の量的欠乏・機能異常による出血性疾患である。
一方、凝固第V因子遺伝子変異である凝固第V因子ライデン(Factor V Leiden, FV R506Q)は、日本人を含む東洋人からは検出されないが、欧米人からは高率で認められる静脈血栓症の危険因子である。FV Leidenは、凝固第V因子の活性化プロテインCによる主要な開裂部位のArg506がGlnに置換したFV異常分子で、APCレジスタンス(活性化プロテインC抵抗性;APCR)の主な原因である。
【その他のポイント】
凝固第V因子は、凝固反応の促進と制御の2つの相反した機能を備えたタンパク質である。
図表
引用文献
1) Shinozawa K, Amano K, Suzuki T, Tanaka A, Iijima K, Takahashi H, Inaba H, Fukutake K: Molecular characterization of 3 factor V mutations, R2174L, V1813M, and a 5-bp deletion, that cause factor V deficiency. Int J Hematol 86: 407
2) Nogami K, Shinozawa K, Ogiwara K, Matsumoto T, Amano K, Fukutake K: Novel FV mutation (W1920R, FV Nara) associated with serious deep vein thrombosis and more potent APC resistance relative to FV Leiden. Blood 123: 2420-2428, 2014.
参考文献
1) 篠澤圭子:先天性第V因子欠乏症とその遺伝子変異,日本血栓止血学会誌 16:281-296,2005.
2) 篠澤圭子,野上恵嗣:Factor V がいよいよ面白くなってきた:血栓症をおこしたFV NARA変異とAPCレジスタンス,日本血栓止血学会誌 25:482-493,2014.