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  • プロトロンビン複合体濃縮製剤(PCC) prothrombin complex concentrate(PCC)

    2025/04/17 更新
    2015/02/17 作成

    解説

    【一般名(製品名)】
    一般名:プロトロンビン複合体濃縮製剤(prothrombin complex concentratePCC〕)
    製品名:ケイセントラ静注用とPPSB-HT静注用「タケダ」の2つがあるが、適応が異なることに注意が必要である。

    ケイセントラには、500国際単位製剤(20ml)と1,000国際単位製剤(40ml)の2規格があり、ドイツおよび米国で採取された血液を原料としている。ビタミンK依存性凝固因子である血液凝固第Ⅱ・第Ⅶ・第Ⅸ・第Ⅹ因子、プロテインC 及びプロテインSを含有し、単位表記は凝固第IX因子の力価を示す。製造工程でアンチトロンビンⅢおよびヘパリンナトリウムが添加されている。

    PPSB-HTには、200単位製剤(10ml)と500単位製剤(25ml)の2規格がある。国内の献血血漿を原料とし、海外では販売されていない。ビタミンK依存性凝固因子である血液凝固第Ⅱ・第Ⅶ・第Ⅸ・第Ⅹ因子を含有し、それ以外のたん白質は極力除去してあるとされるが、プロテインC欠乏症での本剤の有効性を示唆する報告も多い。単位表記は凝固第IX因子の力価を示す。製造工程でヘパリンナトリウムが添加されている。


    【適応】

    ケイセントラの効能・効果は、「ビタミンK 拮抗薬投与中の患者における、急性重篤出血時、又は重大な出血が予想される緊急を要する手術・処置の施行時の出血傾向の抑制」と記載されている。つまり、ビタミンK拮抗薬(ワーファリン)に対する拮抗薬である。

    一方、PPSB-HTの効能・効果は、「血液凝固第IX因子欠乏患者の出血傾向を抑制する」と記載されている。つまり、原則、血友病B患者の止血治療薬である。


    【副作用・禁忌】

    両剤とも重大な副作用として、血栓塞栓症、ショック、アナフィラキシー、播種性血管内凝固(DIC)が挙げられる。

    禁忌は、ケイセントラのみ「播種性血管内凝固(DIC)状態の患者」の記載がある。過凝固状態を誘発または悪化させる可能性があることがその理由である。凝固因子の補充が考慮される場合でも、DIC はビタミンK依存性凝固因子のみの欠乏症ではないため、ケイセントラではなく新鮮凍結血漿(FFP)が推奨される。PPSB-HTには禁忌の記載はないが、同様のリスクは考えられる。また、PPSB-HTには微量のIgAが含有されるため、IgA欠損症患者には慎重に投与する。


    【作用機序】

    ケイセントラの投与は、ワーファリン投与により減少した血液凝固第Ⅱ、第Ⅶ、第Ⅸ及び第Ⅹ因子を速やかに補充することが可能であり、出血リスクの高い、過度に亢進した抗凝固状態を是正する。従来のビタミンKの静脈内注射やFFPの投与と比較して効果発現が早く、FFPと比較して容量負荷が少ない利点がある。

    PPSB-HTは、血友病B患者で欠乏している凝固第IX因子を補充し、止血機能を改善する。


    【半減期・代謝経路】

    ケイセントラに含有される凝固因子の半減期は、第Ⅶ因子の約5 時間から第Ⅱ因子の約60 時間まで幅がある。本剤による欠乏凝固因子の補充効果は持続しないため、抗凝固が是正された状態を確実に維持持続させるため、ビタミンKの併用が推奨される。

    PPSB-HTの凝固第IX因子の第I相及び第II相の血中半減期は平均8.2時間及び20.3時間、生体内回収率は平均64.8%とする報告がある。代謝経路に関しては、通常の人血漿タンパク質と同様に、肝臓等で代謝・異化され、異化された形(アミノ酸)で腎臓より尿中へ排泄されると考えられる。


    【お役立ち情報】

    • 医薬品インタビューフォーム上の一般名は、ケイセントラが「乾燥濃縮人プロトロンビン複合体」、PPSB-HTは「乾燥人血液凝固第IX因子複合体」である。
    • 両剤ともヒトパルボウイルスB19 等のウイルスを完全に不活化・除去することが困難であるため、妊婦または妊娠している可能性のある女性、溶血性貧血、免疫不全症の患者では治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与する。胎児に感染した場合には、流産、胎児水腫、胎児死亡が起こる可能性がある。
    • 国内で使用可能なPCCとして以前は「プロプレックスST」もあったが、20066月をもって供給が終了した。
    • 活性型プロトロンビン複合体製剤(activated prothrombin complex concentrateAPCC)と名称が類似しているが、APCC凝固第VIII因子又は凝固第IX因子インヒビターを保有する患者に適応を有する。

      参考文献

      1. 医薬品インタビューフォーム ケイセントラ静注用:2024年2月改訂(第7版) 日本標準商品分類番号 876343
      2. 医薬品インタビューフォーム PPSB-HT静注用:2022年11月改訂(第8版) 日本標準商品分類番号:876343
      3. Sarode R, Milling TJ Jr, Refaai MA, Mangione A, Schneider A, Durn BL, Goldstein JN: Efficacy and safety of a 4-factor prothrombin complex concentrate in patients on vitamin K antagonists presenting with major bleeding: a randomized, plasma-controlled, phase IIIb study. Circulation 128: 1234-1243, 2013.
      4. Goldstein JN, Refaai MA, Milling TJ Jr, Lewis B, Goldberg-Alberts R, Hug BA, Sarode R: Four-factor prothrombin complex concentrate versus plasma for rapid vitamin K antagonist reversal in patients needing urgent surgical or invasive interventions: a phase 3b, open-label, non-inferiority, randomised trial. Lancet 385: 2077-2087, 2015.
      5. Kushimoto S, Fukuoka T, Kimura A, Toyoda K, Brainsky A, Harman A, Chung T, Yasaka M: Efficacy and safety of a 4-factor prothrombin complex concentrate for rapid vitamin K antagonist reversal in Japanese patients presenting with major bleeding or requiring urgent surgical or invasive procedures: a prospective, open-label, single-arm phase 3b study. Int J Hematol 106: 777-786, 2017.
      6. Yasaka M, Suzuki M, Kushimoto S, Kiyonaga A, Mangione A, Niwa Y, Terasaka N: Real-World Safety and Effectiveness of a 4-Factor Prothrombin Complex Concentrate in Japanese Patients Experiencing Major Bleeding: A Post-marketing Surveillance Study. Cardiol Ther 13: 221-232, 2024.