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  • 凝固第X因子(FX) coagulation factor X

    2025/04/15 更新
    2015/02/17 作成

    解説

    1)遺伝子

    凝固第X因子(FX)の遺伝子(F10)は第13番染色体のq34-qterに存在し、全長約26.7kb8個のエクソンと7個のイントロンからなり、mRNAは約1.5kb488個のアミノ酸をコードする。

     

    2)分子量、半減期、血中濃度

     FXは分子量約59,000のビタミンK依存性凝固因子であり、半減期は2440時間、血漿濃度は810 µg/mLである。

     

    3)蛋白質の構造と機能

    文献上は慣習的に成熟FX軽鎖のN末端のAlaをアミノ酸残基番号の1番目として記載していることが多いが、ここでは前駆体FXの開始コドンのMet1番目としてアミノ酸残基番号を記載する。(上記のAla41番目となる)

     FXは肝細胞で一本鎖の前駆蛋白質として合成され、その後にシグナル配列である22アミノ酸のprepeptideの除去、糖鎖付加、Asp103γ-ヒドロキシル化、γ-glutamyl carboxylaseGGCX)による11個のグルタミン酸残基のγ-カルボキシグルタミン酸(Gla)化と、Paired basic Amino acid Cleaving EnzymePACE/Furinによる18アミノ酸のpropeptideとトリペプチド(Arg180-Lys181-Arg182)の切断が起こり、軽鎖のCys172と重鎖のCys342がジスルフィド結合した二本鎖糖蛋白質として肝細胞から分泌され血液中を循環する。成熟 FXの軽鎖は139アミノ酸(分子量約17,000)、重鎖は306アミノ酸(分子量約42,000)で構成される(図)。軽鎖はGlaドメイン、2つの上皮性細胞成長因子様ドメイン(EGF-1EGF-2)からなり、重鎖は活性化ペプチド(52アミノ酸)とプロテアーゼドメインからなる。

    組織因子(TF)と活性化第VII因子(FVIIa)からなる外因系Tenase複合体または活性化第IX因子(FIXa)と活性化第VIII因子(FVIIIa)からなる内因系Tenase複合体により、FXArg234-Ile235の結合が切断され活性化ペプチドが遊離し活性化FXFXa)となり、活性化第V因子(FVa)を補因子としてプロトロンビンをトロンビンに変換する。FXは外因系と内因系の合流点に存在することにより、血液凝固反応の中心的な役割を担う。産生されたFXaは、血中で速やかにアンチトロンビンや組織因子経路インヒビター(TFPI)により不活化される。

     

    4)病態との関わり

    • 先天性FX欠乏症:F10の病的バリアントによるFXの質的・量的異常により発症する常染色体潜性遺伝の先天性出血性疾患である。粘膜出血や外傷時出血が主な症状であるが、関節内出血や頭蓋内出血などの重症出血も時々経験する。止血治療は補充療法となるが、FX単独の濃縮凝固因子製剤は日本では上市されておらず、プロトロンビン複合体製剤(PCC)や新鮮凍結血漿(FFP)が用いられる。
    • 後天性FX欠乏症:産生臓器である肝の機能低下、ワルファリン内服や食餌性のビタミンK欠乏に加え、ALアミロイドーシスではアミロイド線維へのFXの吸着が報告されている。FXに対する後天性インヒビター(自己抗体)は極めてまれであるが、報告はある。
    • 抗凝固療法のターゲット:直接経口抗凝固薬(DOACs)は主にFXaを阻害することで抗凝固作用を発揮し、心房細動の脳塞栓予防や、静脈血栓塞栓症の治療・予防に対して臨床で広く用いられている。FXa阻害薬(単に「Xa阻害薬」と呼ばれる)で20254月現在、日本で使用可能な薬剤としてリバーロキサバン、エドキサバン、アピキサバンの3種類がある。

    図表

    参考文献

    1)森下英理子.第X因子.一瀬白帝・編.図説 血栓・止血・血管学 血栓症制圧のために.東京:中外医学社;2005.pp.305-312.
    2)備後真登ら.プロトロンビンのプロペプチドを含むキメラ構造のリコンビナント第X因子とFurinの共発現による成熟蛋白質の高発現法の開発と機能解析への応用.臨床病理 2019;67:24-31.