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  • PDGF(platelet-derived growth factor)

    2015/02/17 作成

    解説

    【概要】
     PDGF(platelet-derived growth factor; 血小板由来増殖因子)は血小板α顆粒に貯蔵されている液性因子であり、血管平滑筋細胞や線維芽細胞の増殖因子として精製された。動脈硬化や創傷治癒などに関与するとされていたが、PGDF-Bはサル肉腫ウイルスの癌遺伝子v-sisと92%の相同性を有することが明らかになっており、現在ではがんと深く関与していると考えられている。PDGFはチロシンキナーゼ関連型であるPDGF受容体(platelet-derived growth factor receptor; PDGFR)を介してその生理作用を発現する。


    【構造と機能】
     PDGFをコードする遺伝子として4種類(A鎖、B鎖、C鎖、D鎖)みつかっており、A 鎖は7p22、B鎖は22q31.1、C鎖は4q32、D鎖は11q22.3に存在する。生物活性を有するPDGFは4つのホモダイマーとABのヘテロダイマーとが存在する。全てのサブユニットは8個のシステイン残基(D鎖には5番目のシステインがグリシンに置換されている)によりS-S結合し立体構造を構築する。AA、AB、BBは細胞質内でプロテーゼ修飾を受け、分子量約3万の成熟体として分泌されるが、CC、DDは受容体結合を阻害するCUB領域を保持したまま分泌される。細胞外でプロテーゼにより、CUB領域が切り離され、活性型に変換される(分子量:CC鎖:3.2万、DD鎖:3.5万)。
      機能については多くの報告がある。血管や線維芽細胞では炎症および創傷治癒を促進する。ニューロンやグリア細胞はPDGFおよびその受容体を発現しており、分化・増殖を促している。


    【PDGF受容体(PDGFR)】
     PDGRはPDGFRαとPDGFRβと呼ばれる2つのサブユニットから構成される。PDGFRα、PDGFRβ遺伝子はそれぞれ4q11-12、5q31-32に位置し、構造が類似している。いずれも、5つの免疫グロブリン様ドメインが細胞外に発現し、さらに1つの細胞膜貫通ドメインと細胞内にはエフェクター分子やアダプター分子の結合に必要なドメインを有している。PDGFが結合するとこれらのサブユニットは2量体となり、つまりPDGFRαα、αβ、ββとなり、細胞内シグナル伝達が開始される。リガンドが結合すると、PDGFRのチロシン残基が自己リン酸化を受け、SH2ドメインを有するシグナル伝達分子(PLC-γ、Grb2、PI3Kなど)が活性化される。


    【PDGFの生理機能】
     PDGFは、胎児の成長や血管新生にも関与していると考えられている。PDGFα鎖/α型PDGF受容体は体節から筋・骨格系の連鎖的な発生過程に重要な役割を果たしている。α型PDGF受容体は外胚葉神経堤細胞由来細胞の発生や、体節の形成に必須であることも明らかにされている。いっぽう、PDGFβ鎖の欠損マウスでは、血管形成異常、つまり両心室と大動脈の拡張を引き起こす。β型PDGF受容体欠損マウスでは、腎臓の発生異常や出血傾向を認めた。


    【病態との関わり】

     PDGFおよびPDGFRの過剰発現はアテローム性動脈硬化や線維増殖性疾患の発症と関連がある。PDGF/PDGF受容体系は、創傷治癒、肝硬変、増殖性糸球体腎炎など、炎症・線維化の関与が報告されている。慢性好酸球性白血病では、α型PDGF受容体およびβ型PDGF受容体の恒常的活性化が認められる。隆起性皮膚線維肉腫では、PDGF-B遺伝子転座 t(17;22)が認められる。

    参考文献

    1) サイトカインのすべて,矢田純一,宮坂信之編集,臨床免疫・アレルギー科 57 Suppl. 21,2012.