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プロトロンビン時間(PT) prothrombin time(PT)
解説
【概要】
プロトロンビン時間(prothrombin time : PT)はQuick (1935)により考案された歴史ある検査である。外因系凝固因子と共通系凝固因子の働きを反映するスクリーニングテストとして広く日常の臨床検査に用いられている。先天性凝固障害、ビタミンK欠乏症、肝障害、出血や播種性血管内凝固(DIC)などの後天性凝固障害の診断に使われる。ワルファリンによる抗凝固療法のモニタリング検査として使われている。
【基準値】
標準化されていないため試薬・機器による違いがある。10~12秒程度のことが多い。ワルファリンによる抗凝固療法のモニタリングではinternational normalized ratio (INR)による結果標記を用いる。
【測定法・測定原理】
原理は3.2%クエン酸ナトリウム加被検血漿に組織トロンボプラスチン(組織因子とリン脂質の複合体)とCaイオンを含有する試薬を加え、凝固するまでの時間を測定するものである。なお、生物由来の組織トロンボプラスチンが従来用いられているが、近年は遺伝子組み換え型組織因子を用いた試薬も市販されている。目視で測定可能だが、フィブリン形成を測定する自動分析装置を用いた測定が一般的である。
結果は以下の4通りで表現される。一般にはプロトロンビン時間(秒)、ワルファリンのコントロールにはINRが推奨されている。この検査は基準範囲を各施設で設定する必要があるため、以下の基準範囲は参考とする。
1)プロトロンビン時間(秒)そのものを標準血漿対照値とともに表記する。
2)プロトロンビン活性(%)
自施設で、標準血漿の希釈系列(1倍、2倍、4倍、8倍希釈など)を作成して希釈標準曲線を求め、被検血漿の測定値(秒)をあてはめることにより活性(%)を示す。基準範囲は80~100%。標準血漿は、PT活性が値付けされた市販品を用いることが多いが、正常プール血漿のPT活性値を100%として用いることもある。
3)プロトロンビン比=被検PT(秒)/正常PT(秒)
正常PTは、男女を含む最低20人以上の健常成人から得た新鮮血漿のPT測定値(秒)の幾何平均をいう。正常プール血漿(凍結品や凍結乾燥品)のPT測定値(秒)は代用指標となる。基準範囲は1.00 ± 0.15。
4)プロトロンビン時間国際標準化比(PT-INR)
INR = (被検PT/正常PT)ISIとして示すものである。正常PTは、上記の3)プロトロンビン比における正常PTと同じである。ISIはinternational sensitivity index(国際感度表示)であり、トロンボプラスチンのWHO標準品を基準に、PT試薬の感度として試薬ごとに決められている。ISIが1.0に近い試薬で測定したPT-INRを用いることが国際的に推奨されている。ワルファリンによる一般的な抗凝固療法では2.0~3.0に、心臓に機械弁を用いている場合は3.0~3.5に管理する。4.0を超えると出血性副作用の危険が高く、主治医への緊急連絡が必要である。
【異常値を示す病態とそのメカニズム】
先天性の欠乏症・異常症や後天性の病態(肝のタンパク合成能低下、ビタミンKの欠乏、中和抗体の産生、異常タンパク産生による凝固反応の抑制、大量出血やDIC、ループスアンチコアグラントなど)が原因である。PTは、ワルファリン以外の抗凝固薬たとえば直接経口抗凝固薬(凝固第II因子や第X因子阻害薬)やヘパリンなどを含有する検体でも延長するが、その程度は各薬剤の濃度により異なり、また測定試薬によっても異なる。PT測定試薬のなかにはヘパリン中和剤を含有している試薬もあり、各試薬の添付文書を確認する必要がある。
参考文献
1) van den Besselaar AMHP, et al. Defining a metrologically traceable and sustainable calibration hierarchy of international normalized ratio for monitoring of vitamin K antagonist treatment in accordance with International Organization for Standardization (ISO) 17511:2020 standard: communication from the International Federation of Clinical Chemistry and Laboratory Medicine-SSC/ISTH working group on prothrombin time/international normalized ratio standardization. J Thromb Haemost 22(4):1236-1248, 2024.
2) Dorgalaleh A, et al. Standardization of Prothrombin Time/International Normalized Ratio (PT/INR). Int J Lab Hematol 43(1):21-28, 2021.
3) World Health Organization Expert Committee on Biological Standardization. Guidelines for thromboplastins and plasma used to control oral anticoagulant therapy with vitamin K antagonists, Annex 6, TRS No 979. https://www.who.int/publications/m/item/annex-6-trs-no-979; 2013. [accessed November 22, 2024].
4) 福武勝幸.凝固検査の標準化の現状:プロトロンビン時間(PT).生物試料分析 32(5):357-364, 2009.