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  • 肝機能障害による出血傾向

    2015/02/17 作成

    解説

    【概要】
     肝硬変症や劇症肝炎などの重症の肝疾患では出血傾向がみられ、時には致死的になることもある。原因としては、血小板減少、凝固能低下および線溶亢進などが考えられている。

    【病態・病因】
     肝硬変症では、脾腫によって血小板貯蔵プールが増大することにより循環血小板数が減少する。この場合、摘脾によって血小板数は増加する。貧血、白血球減少も伴って汎血球減少を呈することが多い。また血小板造血の主たる造血因子であるトロンボポエチン(thrombopoetin)が肝臓で産生されることから、血小板減少の原因としてトロンボポエチンの産生低下も関与すると考えられている。フィブリノゲン、凝固第II、V、VII、IX、X因子などの凝固因子は肝細胞で産生されるため、肝機能障害が進行するとこれらの凝固因子の産生が低下し、プロトロンビン時間(prothrombin time; PT)が延長し、フィブリノゲンが低下する。さらに進行すると活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time; APTT)も延長する。また進行した肝硬変症では、線溶が亢進するためフィブリノゲン・フィブリン分解産物(fibrinogen/fibrin degradation products; FDP)が高値をとる。

    【検査と診断】

     肝臓のタンパク合成能を評価するためには、PTの試薬構成を改変して主として凝固第II、VII、X因子の変化を反映するようにしたヘパプラスチンテスト(hepaplastin test; HPT)が肝機能検査の一つとして用いられ、慢性肝炎から肝硬変症にかけて次第に低下する。 劇症肝炎では肝細胞の急激な障害により、肝硬変と同様に凝固因子の産生低下がおこり、PTの延長、フィブリノゲンの低下、HPTの低下がおこり、進行するとAPTTも延長する。劇症肝炎の診断基準にはPT活性値が20%以下という項目が加えられている。劇症肝炎での血小板減少では、その原因に播種性血管内凝固症候群(DIC)も加わっている可能性がある。

     PTの測定は、測定試薬などの差により施設間差があることが問題である。抗凝固薬のワルファリン療法では、これらを解決するために試薬ごとに表示されている国際感度指数(international sensitivity index; ISI)を用いたPT-INR(prothrombin time-international normalized ratio; プロトロンビン時間国際標準比)表示が推奨されている。しかし肝疾患におけるPT測定ではPT-INRを用いても試薬間差は是正されず、肝臓病に特化したISIliverを用いたINRliver表示が有効とされている。

    参考文献

    1)Eby CS and Caldwell SH:Hemostatic challenges in liver disease. In:Marder VJ, et al, eds. Hemostasis and Thrombosis. Basic Principles and Clinical Practice 6ed. Philadelphia, Lippincott,2013:1481-1490.
    2)Porte RJ, et al: The international Normalized Ratio (INR) in the MELD score: problems and solutions Am J Transplant 10: 1349-1353, 2010.