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フィブロネクチン fibronectin
解説
【概要】
血液、細胞表面、組織の細胞外マトリックスに存在する細胞接着性糖タンパク質である。
【分子量】
22-25万
【血中濃度】
300μg/mL
【構造】
RNAの選択的スプライシングが3カ所にあり、20種類のmRNAが組織特異的に合成されうる。I, II, III型モジュールから構成され、モジュールの集合で機能ドメインを形成する。N末端よりフィブリン、ヘパリン、バクテリア結合ドメイン-I、ゼラチン結合ドメイン、細胞結合ドメイン-I、ヘパリン結合ドメイン-II、細胞結合ドメイン-II、フィブリン結合ドメイン-IIなどから構成される(図)。細胞接着部位は2箇所あり、細胞結合ドメイン-IにRGD(Arg-Gly-Asp)配列、細胞結合ドメイン-IIにLDV(Leu-Asp-Val)配列とREDV(Arg-Glu-Asp-Val)配列が存在する。細胞側の受容体はインテグリン。肝臓で合成され血液中に分泌される2量体(血漿フィブロネクチン)と、線維芽細胞などで合成され分泌される多量体(細胞性フィブロネクチン)がある。血漿フィブロネクチンは血小板のα顆粒にも存在し、活性化で細胞表面に発現する。
【機能】
細胞やヘパリン、フィブリン、インテグリンなどの生体高分子に結合し、細胞の接着、分化、増殖、移動、組織構築、創傷治癒、癌の転移など様々な機能を持つ。血液凝固反応では、Ca2+存在化、活性化凝固第XIII因子によるフィブリンの分子間架橋の際、α2プラスミンインヒビターとともにフィブリンに架橋される。インテグリンは細胞内でテーリン、アクチニンなどとの結合を介してアクチンフィラメントと連絡しており、細胞作用の多くが細胞骨格系を通じて発現される。血小板にはインテグリンα5β1、αVβ3、αIIbβ3が発現し、フィブロネクチンは活性化依存的にインテグリンαIIbβ3に結合、活性化非依存性にインテグリンα5β1に結合する。血漿フィブロネクチンはフィブリンの存在下で、フィブロネクチン-フィブリン複合体を形成し、血小板の粘着、活性化、凝集を促進し、フィブリン径の増加に作用するとされている。
【ノックアウトマウスの表現形】
ヘテロ接合体は正常に誕生し、成長や繁殖力は野生型と同様であるが、血液中フィブロネクチン濃度は約半分に低下する。ホモ接合体は胎生致死で、中胚葉、神経管、心血管の発達が障害される。
【病態との関わり】
血漿フィブロネクチン欠損マウスを用いた塩化鉄による細動脈血栓モデルで、早期血小板の接着に変化はないものの血栓形成が遅延し不安定であった。そのことより血漿のフィブロネクチンは動脈血栓形成に関与していると考えられている。一方、フォン・ヴィレブランド因子、フィブリノゲン、血漿フィブロネクチン欠損のトリプルノックアウトマウスの解析では血小板凝集に抑制性に機能することが示唆された。
図表
参考文献
1) 前田利長,関口清俊:ファイブロネクチンおよび類縁接着蛋白質とそのレセプター,松田道生,鈴木宏治編集,止血・血栓・線溶.中外医学社,1994,26-32.
2) 平上睦,中冨靖,水口純:ファイブロネクチンの欠損マウス,血栓止血誌 9:467-470,1998.
3) Wang Y, Ni H. Fibronectin maintains the balance between hemostasis and thrombosis. Cell Mol Life Sci 2016;73:3265-3277.