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  • 先天性血栓性素因 congenital thrombophilia

    2015/02/17 作成

    解説

     何らかの要因により血栓症を起こしやすくなっている状態を血栓傾向あるいは血栓性素因とよぶ。このうち、血栓症発症リスクとなる血液凝固因子や凝固制御因子の遺伝子異常をもつか、遺伝子異常は不明でも、血栓症発症リスクとなる因子の異常を家族性にもつ場合を先天性血栓性素因という。

    <原因と病態>
     多くは凝固阻止物質や線溶因子の欠如または異常症である。診断には当該因子の測定が必要である。凝固制御因子(アンチトロンビン、プロテインCプロテインSなど)欠乏症、APC抵抗性、アンチトロンビン抵抗性、凝固因子(プロトロンビン、凝固第VIII因子、凝固第IX因子など)増加などが考えられる。欧米で頻度が高くAPC抵抗性の原因となる凝固第V因子ライデン変異は日本人には見られない。一方、日本ではプロテインS徳島変異(K196E)が高頻度に見られる。臨床所見としては静脈血栓塞栓症(VTE)の家系内発生、若年性(40歳以下)発症、繰り返す再発、まれな静脈(上矢状洞静脈洞、上腸間膜静脈など)での静脈血栓症の発症などの特徴が挙げられる。

     アンチトロンビン欠乏症・異常症:1/5000~1/2000の頻度で認められ、常染色体優性遺伝形式をとる。通常、患者はヘテロ接合体(ホモは致死的である)であり、アンチトロンビンの血中濃度は正常の50%程度を示す(type I)。一方、分子異常症(type II)ではアンチトロンビン抗原量は正常で、活性が低下する。
     プロテインC欠乏症・異常症:常染色体優性遺伝でその頻度についてはヘテロ接合体で1/200~1/16000と報告により差が見られる。血中のプロテインCは正常の30~65%程度を示す。ホモ接合体はまれであり、新生児期に電撃性紫斑病と呼ばれる劇症の出血症状を呈する。プロテインC欠乏症にワルファリンを投与すると、最初の数日間はビタミンK依存性凝固因子の低下に比し、プロテインC産生の低下が顕著に現れ、逆に血栓症を誘発することがある。
     プロテインS欠乏症・異常症:常染色体優性遺伝形式をとり発生頻度はプロテインC欠乏症より高い。プロテインSは通常約60%がC4bpと複合体を形成しているが、欠乏症では一般に遊離型のプロテインSが著減している。日本ではK196E変異が高頻度に見られる。その他、プラスミノゲン欠乏症・異常症、フィブリノゲン異常症、ホモシステイン尿症などが先天性血栓性素因と考えられる。一般に先天性血栓性素因では因子の欠乏が生まれつきでも静脈血栓症の発症は通常成人以降、多くは20~40台以降である。特に静脈うっ帯や長期臥床、妊娠、手術などの後天的要因が加わった際に発症しやすい。凝固阻止因子の欠乏や異常が捉えられるのは家族性静脈血栓症の一部にすぎず、原因不明のことも少なくない。

    <診断>
     各因子の測定による。活性を測定すると分子異常症の見落としが少ない。一般にヘテロ接合体では正常の50%程度となるが、プロテインC欠乏症ではビタミンK摂取や肝機能の影響を受け、診断が難しい場合もある。他のビタミンK依存性凝固因子(凝固第VII因子など)を同時に測定すると、その比率が参考になることがある。