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  • 無フィブリノゲン血症/フィブリノゲン低下症/フィブリノゲン異常症

    2015/02/17 作成

    解説

    1)病態・病因 
     遺伝的フィブリノゲン(Fbg)異常は、Fbg欠損症(無Fbg血症)、(機能)異常症、欠損症ヘテロ接合体型である低下症の3型に分類され、遺伝子異常の原因としては種々のものが報告されている。
     患者症状は、無症状52%、出血26%、血栓22%である。一部の症例では不育症を呈する。さらに、まれに家族性腎アミロイドーシスを呈する症例や、変異Fbgが肝細胞に蓄積して肝障害や肝硬変を呈する症例が報告されている。Fbg欠損症では臍帯・頭蓋内・消化管などでの出血症状が顕著であり、治療の必要がある。

    2)疫学
     Fbg欠損症は100万人当たり1人程度とされているが、Fbg異常症・低下症の頻度は明らかでない。Fbg異常症は10万人当たり1人程度以上、Fbg低下症は100万人当たり1人程度以上存在すると推測される。Fbg欠損症・異常症・低下症は全世界で合わせて400家系ほどが報告されており、ウェブサイト1)で閲覧可能である。

    3)検査と診断 
     遺伝的Fbg異常が疑われたときには、Fbgタンパク量測定を行いFbg欠損症、異常症、低下症の鑑別を行う。確定診断のためにはDNAシーケンス解析、血漿FbgのWestern Blotによる解析、精製FbgのSDS-PAGE、凝固機能(トロンビンによるフィブリン重合反応、トロンビンによるフィブリノペプチド放出)、フィブリン機能(プラスミンによるフィブリン塊溶解、組織型プラスミノゲンアクチベータ(tPA)によるプラスミノゲン活性化)などの解析を行う。

    4)治療の実際 
     症状のない場合には何も治療しない。ただし、不育症の場合には次のような基準でFbg製剤を投与する。それぞれFbg濃度を、自然流産防止:60 (できれば100) mg/dl以上、胎盤早期ハク離防止:100~150 mg/dl、分娩中・分娩後の出血防止:150~200 mg/dl、に維持する。しかし、Fbg濃度が必要以上に高くなると血栓症を引き起こす危険がある。
     出血症状を呈するFbg欠損症患者の場合には、上記に準じてFbg製剤投与により150~200 mg/dlを維持する。一方、血栓症を呈する患者の場合には、血栓溶解を行った後、新たな血栓形成防止のために抗凝固療法を行う。

    5)その他のポイント・お役立ち情報
     基準範囲の下限は150~200 mg/dlに設定している施設がほとんどである。
     先天的異常症を疑う前に、後天的にFbgが低下する原因がないかどうかを確認する。また検査室では、Fbg測定値が低下する技術的要因(採血時の凝固・フィブリン析出等)がないことを確認する。

    参考文献

    1) http://site.geht.org/site/Pratiques-Professionnelles/Base-de-donnees-Fibrinogene/Base-de-donnees/Base-de-donnees-des-variants-du-Fibrinogene_40_.html.
    2) 奥村伸生他:フィブリノゲン,検査と技術36:707-715,2008.

    3) 奥村伸生他:フィブリノゲン異常症と欠損症から明らかになったフィブリノゲンの機能異常と産生異常,信州医学雑誌57:145-154,2009.
    4) Casini A, Blondon M, Lebreton A, Koegel J, Tintillier V, de Maistre E, Gautier P, Biron C, Neerman-Arbez M, de Moerloose P: Natural history of patients with congenital dysfibrinogenemia. Blood 125: 553561, 2015.