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交差混合試験(クロスミキシングテスト・凝固因子インヒビター定性) cross mixing test
解説
測定方法:
活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)延長症例の鑑別診断には交差混合試験(クロスミキシングテスト、凝固因子インヒビター定性とも表現される)が有用である.交差混合試験には,患者血漿と正常血漿を混合後直ちに凝固時間を測定する「即時反応」と,混合血漿を2時間37℃でインキュベーション後に測定する「遅延反応」がある.縦軸にAPTT測定値,横軸に血漿混合比(%)としてグラフを作成し視覚的に判定する(図).交差混合試験における混合血漿の混合比率および測定ポイント数は標準化されていない.
本方法は凝固時間延長原因の精査を目的に実施するため,APTTだけでなく,プロトロンビン時間(PT)でも実施可能である.
判定方法および臨床的意義:
判定は現状では視覚的な判断で行う.
1)凝固因子インヒビター:即時反応では,反応曲線が「下に凸」,0%と100%を結ぶ「直線上」,または「上に凸」と様々なパターンがあるが,遅延反応では「上に凸」がより明確になる.
2)ループスアンチコアグラント(LA):即時反応で「上に凸」または「0%と100%を結ぶ直線上」であり,遅延反応でもほぼ同様のパターンを示す.
3)凝固因子欠損(血友病など):反応曲線が即時反応で「下に凸」で,遅延反応でも同様のパターンを示す.
視覚的な判断に加えて、定量化指標も用いられることがある。
1)mixing test-specific cutoff(MTC);国際血栓止血学会 抗リン脂質抗体部会で推奨されている定量化指標であり,正常血漿と患者血漿を1:1で混和した検体の凝固時間を正常血漿の凝固時間で割ることで算出することが示されている.本方法はLAに対して感度が高い指標であることが報告されており、LAを強く疑う場合などに有用と考えられる.
2)index of circulating(ICA);Rosner indexとも呼ばれ,1987年にRosnerらによって報告された指標である.その算出方法は,(正常と患者の1:1混和血漿の凝固時間-正常血漿の凝固時間)/患者血漿の凝固時間×100であり,混和血漿の凝固時間が延長傾向であれば高値を示す.ICAはMTCと比較して特異度が高いことが報告されており,APTTの原因不明の延長時における原因精査の一つとして有用な可能性が考えられる.
異常値に遭遇した際の対応:
1)凝固因子インヒビター:凝固第VIII因子(VIII因子)またはその他の内因系凝固因子(IX, XI, XII因子)活性を測定し,ベセスダ法によるインヒビター力価の測定を行う.PT延長を伴う、または、PTによるクロスミキシングテストで凝固因子インヒビターパターンを示す場合は共通系凝固因子活性を測定し、ベセスダ法によるインヒビター力価の測定を行う。
2)LA:APTT系LAの確認試験であるsilica clotting timeまたはスタクロットLAで凝固時間の延長がリン脂質依存性であることを確認する.Dilute Russell’s viper venom time(dRVVT)は,APTT延長時であっても陽性とならないことがあるため,注意する.また,他の抗リン脂質抗体(血清学的検査で検出される抗カルジオリピン抗体,抗β2グリコプロテインI抗体など)も測定する.
3)凝固因子欠損:VIII因子またはその他の内因系凝固因子活性を測定する.稀ではあるものの,接触因子の欠乏によるAPTT延長時でも下に凸のパターンを示す.PT延長を伴う、または、PTによるクロスミキシングテストで凝固因子欠損パターンを場合は共通系凝固因子活性を測定する。判断に困った際には,専門に行っている施設に相談したほうがよい.
本検査の変遷
交差混合試験は1978年にExnerらによって考案された検査方法である.Exnerらは正常血漿と複数の患者血漿を10:0,9:1,8:2,5:5.2:8,0:10の比率で混和し,カオリン凝固時間を測定してグラフ上にプロットしたところ,インヒビターを含有する検体では凝固時間の短縮が認められない「上に凸」のパターンが認められたことを報告した.これにより,グラフの形状をExner curveと呼ぶこともある.
Exner curveによるグラフ形状は検体によって異なるため,診断時における判断材料になりうるものの解釈が困難ということがあり,国際血栓止血学会のガイドラインでは定量化指標を用いた解釈が推奨されている.定量化指標はLAに対する結果解釈の方法として発展してきており,LAに対する感度・特異度をもって有用性が評価されてきている.
その他のポイント:
交差混合試験は標準化されていないため,実際の測定において多くの問題が生じる.特に用いる正常血漿によって大きく結果が異なることがある.また,LAは判断に苦慮することが多く,APTT試薬はLA感受性の良好なものを用いる.
図表
参考文献
1) 家子正裕:ループスアンチコアグラント,日本検査血液学会編,スタンダード検査血液学(第2版).東京,医歯薬出版,2013,170-171.
2) 家子正裕:クロスミキシング試験を臨床に生かすには,医療と検査機器・試薬 35:867-872,2012.
3) Devreese KMJ, de Groot PG, de Laat B, Erkan D, Favaloro EJ, Mackie I, Martinuzzo M, Ortel TL, Pengo V, Rand JH, Tripodi A, Wahl D, Cohen H. Guidance from the Scientific and Standardization Committee for lupus anticoagulant/antiphospholipid antibodies of the International Society on Thrombosis and Haemostasis: Update of the guidelines for lupus anticoagulant detection and interpretation. J Thromb Haemost, 18: 2828-2839, 2020.
4) Kumano O, Moore GW. Lupus anticoagulant mixing tests for multiple reagents are more sensitive if interpreted with a mixing test-specific cut-off than index of circulating anticoagulant. Res Pract Thromb Haemost, 2: 105-113, 2017.
5) Kumano O, Moore GW. Ruling out lupus anticoagulants with mixing test-specific cutoff assessment and the index of circulating anticoagulant. Res Pract Thromb Haemost, 3: 695-703, 2019.
6) Exner T, Rickard KA, Kronenberg H. A sensitive test demonstrating lupus anticoagulant and its behavioural patterns. Br J Haematol, 40: 143-51, 1978.