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TGF-β transforming growth factor-β
解説
【分子量、半減期、血中濃度】
TGF-β(transforming growth factor-β)は、ホモ二量体、分子量25kDaの多機能性サイトカイン。ほとんど全ての細胞で産生され、健常人の血中濃度は数~数十ng/ml、血中半減期はほぼ2分程度との報告あり。
【構造と機能】
TGF-β遺伝子からコードされる前駆体ポリペプチドとして産生される。furin様プロテアーゼによりN末側プレペプチドlatency associated protein(LAP)とC末側の活性型TGF-βになる部分とに切離され、各々が二量体化した後に疎水結合により活性型TGF-βがLAPに包まれた受容体に結合できない潜在型複合体として生体内に存在。別遺伝子からコードされるlatent TGF-β binging protein (LTBP)を介して、細胞外マトリックス上に貯蔵。ヒトでは相同性が70-80%と高いβ1~β3の3つのアイソフォームが存在し、全て潜在型複合体中から活性型TGF-βが放出される反応(TGF-β活性化)を経て、TGF-β受容体に結合、細胞増殖・分化の制御、上皮間葉転換(EMT)の誘導、T細胞の分化制御を介した免疫系調節、血管新生調節、細胞外基質(ECM)産生促進など多機能を発揮。
【ノックアウトマウスの表現型】
TGF-β1ノックアウトマウスは、血管形成異常が原因で多くが胎生期に死亡。誕生しても多臓器に炎症を起こし数週以内に死亡。TGF-β2は、先天的心奇形により、出生後すぐに死亡。また、頭蓋顔面異常や目の発達不全、骨格の奇形なども認められる。一方、TGF-β3ノックアウトマウスは生存するが、高頻度に口蓋裂を発症。
【病態との関わり】
TGF-βは初期癌に対しては強力な細胞増殖抑制能、アポトーシス誘導能により抑制的に働く一方、ほとんどの進行癌では発現が亢進しており、EMT誘導を介して癌細胞の浸潤や転移に関わるなど、癌促進的に働く。創傷治癒過程において、コラーゲンやフィブロネクチンなど再生の足場となるECM産生を亢進して組織修復に関与するが、炎症を伴う慢性的組織障害時には過度に産生されたTGF-βにより、ECM産生が亢進すると同時にプラスミノゲンアクチベータインヒビター1(PAI-1)、TIMP産生亢進によりECM分解系が抑制される結果、過剰な線維が組織に沈着した臓器線維症に陥る。
【その他のポイント・お役立ち情報】
TGF-β活性化の機構は、細胞接着因子インテグリンによる接着型活性化やプラスミンや血漿カリクレインなどのプロテアーゼによる切断型活性化が知られており、生理活性および病態により異なる。
図表
参考文献
1) 宮澤恵二,他/企画:細胞の個性に応じて機能するTGF-βファミリー 多様な疾患のmaster regulator,実験医学 28巻6号,羊土社,2010.
2) TGF-βシグナル研究―メカニズムの解明から新たな治療へ,宮園浩平他編集,別冊・医学のあゆみ.医歯薬出版,2011.