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  • 凝固第XIII因子(FXIII) Factor XIII

    2025/12/26 作成

    解説

    概要

    血液凝固第XIII/13因子(以下FXIII)は、凝固カスケード反応の最終段階で形成される止血栓を安定化し、その溶解を制御する必須タンパク質、すなわち向凝固・抗線溶因子である。血液中では酵素活性部位を持つAサブユニット(FXIII-A)二量体とそれを安定化するBサブユニット(FXIII-B)二量体からなる異種四量体として存在する。それぞれのサブユニットの遺伝子異常により先天性FXIII欠損症となり、それぞれ致死的または軽度の出血症状を引き起こす。一方、後天性FXIII欠乏症は、FXIIIの産生低下または消費増加により発症し、欠乏が重度な場合には様々な出血症状を引き起こす。特に、自己免疫性FXIII欠乏症は、致死的な出血症状を呈する。

    1. 分子構造

    FXIII-Aは731個のアミノ酸残基から構成され、炭水化物(糖鎖)を欠いているため、その分子量は83,150と計算される。FXIII-Bは641個のアミノ酸残基から構成され、8.5%の炭水化物を含む分子量は79,100と計算される。A2B2四量体の全分子量は324,500と計算され、これは精製された血漿由来タンパク質のSDSゲル電気泳動による推定分子量324 kDaと一致する。

    FXIII-Aは、タンパク質を架橋結合する酵素であるトランスグルタミナーゼファミリーのメンバーであり、FXIII-A分子全体のアミノ酸配列は、他の9つのメンバーと相同である。FXIII-Bは10個の「寿司ドメイン」、またはショートコンセンサスドメイン、または GP-I (β-糖タンパク質-I に由来) ドメインで構成される。

    FXIII-Aの3次元構造は「卵形」であり、アミノ末端活性化ペプチドの後にβサンドウィッチ、活性部位を含む触媒コア、第一βバレル、および 第二βバレルドメインが続く(図)。A2B2四量体3次元構造は、球状のFXIII-A二量体から2つのFXIII-Bが外側に棒状に伸びているとされていたが、最近、FXIII-B二量体1番目から5番目の寿司ドメインはFXIII-A二量体上に「王冠」状に搭載されていることが示された。

    2. 遺伝子構造と発現

    FXIII-A遺伝子は6p24-p25に位置し、他のトランスグルタミナーゼ遺伝子の座位とは独立して存在する。約180 kbの長さで、15のエクソンと14のイントロンから構成される。ヒト組織では、胎盤、腎臓、骨格筋、肝臓、肺で FXIII-A mRNAが検出されているが、FXIII-Aタンパク質を血液中に放出する細胞、組織、臓器は未だに特定されていない。

    FXIII-B遺伝子は1q31-32.1に位置し、その遺伝子座には「寿司ドメイン」を持つ遺伝子スーパーファミリーの多くのメンバーが密集している。約30 kbの長さで、12のエクソンと 11のイントロンで構成され、10個の「寿司ドメイン」が個別のエクソンによってコードされている。FXIII-B遺伝子の転写物mRNAはヒト肝細胞でのみ検出される。

    3.血中濃度と半減期

    FXIIIA2B2四量体)の血中半減期9~12日。日常診療での測定値は正常血漿を1とした時の百分率%(あるいはU/mL)で表される(基準範囲70~140%あるいは0.7~1.4 U/mL)。なお、血中にはFXIII-BFXIII-Aの約2倍存在するので、複合体型FXIII-Bと同量の遊離型FXIII-Bが存在することに留意すべきである。

    4. 生理活性

    FXIII-Aは凝固カスケード反応の最終段階で生成されるトロンビンによって活性化され(FXIIIa)(図)、FXIII-Bから解離して基質に作用する。すなわち、FXIIIaはフィブリン分子同士を架橋結合(N ε(γ-glutamyl)lysyl イソペプチド結合)して止血栓の物理的抵抗性を高め(向凝固作用)、抗線溶タンパク質α2-プラスミンインヒビターをフィブリンと共有結合することによってタンパク質分解酵素プラスミンに対する抵抗性を高める(抗線溶作用)。FXIIIaで架橋結合されたフィブリンγ鎖二量体(γダイマー)がプラスミンによって分解された断片がDダイマーである。

    また、FXIIIaは、多数のタンパク質を基質として認識して架橋結合することが知られており、フィブロネクチンとフィブリンを架橋結合して細胞外マトリックスを安定化するのみならず内皮細胞上のαVβ3インテグリンと血管内皮増殖因子受容体-2(VEGFR-2)との間の複合体形成を誘導して血管新生を促進するので、創傷治癒にも貢献している。

    なお、FXIIIは凝固反応だけでなく炎症反応や感染に対する防御反応(自然免疫)にも関与しているとFXIII-Aノックアウトマウスで報告されているが、ヒトの先天性FXIII欠乏症患者では「易感染性」は認められていない。


    5
    .病態との関係

    5-1.先天性 FXIII 欠乏(欠損)症とその分子病態学的メカニズム

    先天性FXIII欠損症は、その発生率は低いが (100万人に2人)、各サブユニットの遺伝子の欠陥により発症する。先天性FXIII-A欠損症も先天性FXIII-B欠損症も常染色体潜性(劣性)遺伝を示す。先天性FXIII-A欠損症は、典型的な出生後の臍出血、一時的な止血から24~36時間後の「再出血(後出血と呼ぶ)」、致命的な頭蓋内出血、および異常な創傷治癒を呈し、女性患者は反復性流産を経験するが、FXIII-Aノックアウト マウスでの研究によりこれが子宮内出血によって引き起こされることが明らかにされた。先天性FXIII-B欠損症では、止血負荷(外傷や手術など)により出血症状が起きることが多い。

    現在までに、先天性FXIII欠損症患者において199個のFXIII-A変異と20個のFXIII-B変異が同定されている。先天性FXIII-A欠損症におけるほとんどのFXIII-A変異は、細胞内プロテアソームによる異常タンパク質の急速な分解を引き起こすと考えられる。先天性FXIII-B欠損症におけるFXIII-B変異の一部は、異常タンパク質の小胞体残留と分泌障害を引き起こす。

     なお、先天性FXIII欠乏症患者の一部に創傷治癒の異常が認められるが、後天性FXIII欠乏症患者では報告されていない。

    5-2. 後天性 FXIII 欠乏症

    様々な疾患において、FXIIIの産生低下と消費増加により、後天性FXIII欠乏症に陥ることが多い。まれではあるが、重度の欠乏症は様々な出血症状を引き起こす。特に、自己免疫性FXIII欠乏症 (AiF13D)では、抗FXIII自己抗体がFXIII活性を抑制したり、FXIIIのクリアランスを促進したりして、致命的な出血を引き起こす。AiF13D は、自己免疫性凝固因子欠乏症の中で、出血に関連する死亡率が最も高いため、他の非免疫性 FXIII 欠乏症との鑑別が不可欠である。

    5-3. FXIII-A遺伝子多型と血栓症

     FXIII-A遺伝子のVal34Leu多型が、白人で血栓症と相関していることが報告されている。なお、日本人、韓国人、中国人は全員Val型のホモ接合性である。

    図表

    • 血液凝固第XIII/13因子(FXIII-A2B2)のトロンビンによる活性化。

    参考文献

    1)Thromb Haemost. 2001 Jul;86(1):57-65.

    2)Int J Hematol. 2012 Apr;95(4):362-70.

    3)Blood Rev. 2017 Jan;31(1):37-45.

    4)Semin Thromb Hemost. 2024 Jun 12. Epub ahead of print.

    5)日本血栓止血学会誌25巻4号 Page465-474(2014.08)

    6)日本血栓止血学会誌28巻3号 Page393-420(2017.06)