大分類
  • 凝固
  • 小分類
  • 分子
  • プロテインZ protein Z

    2015/02/17 作成

    解説

    【概要】
     プロテインZ(PZ)は、PZ依存性プロテアーゼインヒビター(ZPI)のコファクターとして、凝固反応の抑制に働くビタミンK依存性タンパク質である。


    【構造】

     成熟タンパク質は360個のアミノ酸からなり、N末端から、13個のγ-カルボキシグルタミン酸を含むGlaドメイン、2個の表皮成長因子(EGF)ドメイン、偽セリンプロテアーゼドメインで構成される(図1)。凝固第VII、IX、X因子と類似した構造であるが、セリンプロテアーゼの活性部位を形成する3つのアミノ酸残基(His, Asp, Ser)のうち、HisとSerがそれぞれLysとAspに置換しているため、プロテアーゼとしては機能しない。分子量は約62 kDaである。Ser53にO結合型、Asn59, 191, 289とThr288にN結合型糖鎖が付加している。
     PZ遺伝子は染色体13q34に存在し、凝固第XおよびVII因子遺伝子と隣接している。およそ14 kbにわたり、9個のエクソン(1個のalternative exonを含む)と8個のイントロンからなる。


    【生合成・血中濃度】

     主に肝臓で産生されるが、血管内皮細胞での発現も報告されている。PZ遺伝子の転写には肝特異的転写因子HNF4αが主として働き、Sp1も転写促進に寄与する。ビタミンK依存性タンパク質に特徴的な40アミノ酸残基のprepro-leader配列をN末端に持つ前駆体として合成され、小胞体内腔での糖鎖付加とGlaドメインにある13個のGlu残基のγカルボキシル化、ゴルジ体内でのプロペプチドの切断を経て細胞外に分泌される。
     血中PZ濃度は新生児期に急激に増加し、半年後にはほぼ健常成人と同じレベルに達する。性別では女性の方が低値を示す。欧米白人の平均血中PZ濃度は2.9 μg/mL であるが、個人差が大きい(0.6-5.7 μg/mL)。同じ性かつ同等の年齢層で比較した場合、日本人の血中PZ濃度はやや低い傾向にある。プロモーター領域の-13A/GとイントロンF内の79G/A遺伝子多型について、血中PZ濃度との関連が報告されている。
     経口抗凝固薬であるワルファリンの服用下でPZの血中濃度は極めて低値を示す。in vitroにおいて、細胞からのPZの分泌がビタミンKに強く依存し、ワルファリンに感受性であることが示されている1)


    【半減期】

     経口抗凝固薬投与後の血中レベルの推移から、PZの血中半減期は2.5日未満とされている。


    【機能】

     ZPIのコファクターとして、活性化凝固第X因子(Xa)の抑制に働く。血中のPZはZPIとの複合体として存在しており、PZ-ZPI複合体がPZのGlaドメインおよびカルシウムイオンを介してリン脂質膜に結合し、Xaとの阻害複合体を形成するものと考えられている。


    【ノック・アウトマウスの表現型】

     PZ遺伝子単独欠損の場合、未処置ではいかなる表現型も示さないが、コラーゲン/エピネフリンの同時投与において肺塞栓による死亡率の増加が観察されている2)。また、ライデン型変異凝固第V因子を保有するマウスにおいて、PZホモ欠損はライデン型凝固第V因子による血栓傾向を増強させる。


    【病態との関わり】

     血栓性疾患(虚血性脳卒中、急性冠症候群、静脈血栓症など)とPZ低値との関連が報告されている。また、不育症例、妊娠早期の胎児死亡の症例での血漿PZレベルの低下も報告されている。

    図表

    • 図1 プロテインZの構造

    引用文献

    1) ヒトprotein Zの独特な分泌様式:Glaドメインによる非効率,ビタミンK依存性かつワーファリン感受性な分泌,日本血栓止血学会誌21巻3号.
    2) Zhang J, Tu Y, Lu L, Lasky N, Broze GJ: Protein Z-dependent protease inhibitor deficiency produces a more severe murine phenotype than protein Z deficiency. Blood 111: 49734978, 2008.

    参考文献

    1) プロテインZとZPIの分子病態学,一瀬白帝編,図説血栓・止血・血管学~血栓症制圧のために.中外医学社.