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経カテーテル動脈塞栓術(TAE) transcatheter arterial embolization(TAE)
解説
<概要>
経カテーテル動脈塞栓術(TAE)とは、止血、腫瘍の治療(腫瘍塞栓)、血管奇形の治療、術前処置などを目的として、血管内に挿入したカテーテルから塞栓物質を標的血管に注入し、血流を遮断または制御する治療法である。塞栓物質には、形状や素材により金属コイル、塞栓用プラグ、ゼラチンスポンジ、マイクロスフィア(球状塞栓物質)、液体塞栓物質、無水エタノールなどがある。液体塞栓物質としては、NBCA(N-butyl-2-cyanoacrylate:本邦ではヒストアクリル®などの商品名で知られ、主に組織接着・補強や血管塞栓に用いられる)やエチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)などが用いられる。EVOH製剤としては、本邦では、脳動静脈奇形などの治療にOnyx™️(オニキス™️、低粘度版であるOnyx™️ LESを含む)が薬事承認され、使用されている。
金属コイルは主に白金製で、永久塞栓物質として用いられる。血管径や形状に応じて適切なサイズや形状のコイルを選択する。留置方法によりプッシャブルタイプとデタッチャブルタイプに大別される。プッシャブルタイプは、専用のプッシャーワイヤーやガイドワイヤー、または生理食塩液のフラッシュにより押し出して留置する。デタッチャブルタイプは、コイルがデリバリーワイヤーに接続されており、電気的、機械的、あるいは水圧により離断操作を行うまで位置調整が可能で、より正確な留置が期待できる。血栓化促進のために、コイル表面に合成繊維などが付着しているものも広く用いられる。
<適応>
- 動脈性出血 外傷性出血、消化管出血、喀血、産科出血、医原性出血など、さまざまな原因による急性・慢性動脈性出血に対し、出血責任血管を同定し塞栓する。塞栓物質は出血部位、血管径、血流状態に応じて選択する。NBCA(ヒストアクリル®など)やゼラチンスポンジ、金属コイルなどが用いられる。
- 動脈瘤 脳動脈瘤、内臓動脈瘤(腎動脈瘤、脾動脈瘤、肝動脈瘤など)、末梢動脈瘤などに対し、瘤内への血流を遮断し破裂を予防する目的で、主に金属コイルを用いて瘤内を充填(パッキング)する。母血管の温存が原則である。一部の動脈瘤ではNBCA(ヒストアクリル®など)やEVOH(Onyx™️など)といった液体塞栓物質が用いられることもある。また、特に大型や血栓化コイル塞栓術が困難な脳動脈瘤に対しては、血流を改変する特殊なステント(Flow Diverter Stent; FDS)を母動脈に留置し、瘤内への血流を大幅に減少させて血栓化を促す治療法も行われる。FDSは、一部の複雑な内臓動脈瘤や末梢動脈瘤に対しても、その応用が検討・報告されているが2025年5月時点では本邦では保険適応ではない。さらに、主に分岐部に発生する特定の形状を持つ脳動脈瘤に対しては、瘤内に留置するメッシュ状のデバイス(Woven EndoBridge; WEBデバイス)を用いて瘤内の血流を効果的に停滞させ血栓化を促す治療法も選択肢の一つとなっている。ただしこれら最新のデバイス等は厳格な適応が定められており、全ての施設・症例で使用可能となるわけではない。
- 腫瘍
- 悪性腫瘍: 肝細胞癌、転移性肝癌、腎細胞癌、その他多血性腫瘍に対し、栄養動脈を塞栓することで腫瘍の増殖抑制、壊死、症状緩和を図る。抗がん剤を併用する経カテーテル的肝動脈化学塞栓術(TACE)も広く行われる。ゼラチンスポンジ、マイクロスフィア、液体塞栓物質などが用いられる。
- 良性腫瘍: 子宮筋腫、腎血管筋脂肪腫、骨盤内うっ血症候群、多血性良性腫瘍、脳腫瘍などに対し、症状緩和や縮小、手術時の出血量減少を目的として行われる。マイクロスフィアやゼラチンスポンジ、コイルなどが主に用いられる。
- 血管奇形 動静脈奇形(AVM)、動静脈瘻(AVF)、静脈奇形、リンパ管奇形など、病変のタイプ、部位、血行動態に応じて塞栓部位や塞栓物質(NBCA(ヒストアクリル®など)やEVOH(Onyx™️など)といった液体塞栓物質、金属コイル、無水エタノール、マイクロスフィアなど)を選択する。経動脈的アプローチのほか、経静脈的アプローチや直接穿刺も行われる。
- 血行改変・術前処置 ステントグラフト内挿術前後のエンドリーク予防・治療のための側副血行路塞栓、臓器温存手術や切除範囲拡大を目的とした術前門脈塞栓術(PVE)、外科手術時の出血量低減を目的とした術前塞栓など。
- その他 脾機能亢進症に対する部分的脾動脈塞栓術(PSE)、消化管静脈瘤に対するバルーン閉塞下逆行性経静脈的塞栓術(B-RTO)やその変法である経皮経肝的静脈塞栓術(PTO)/経皮経脾的静脈塞栓術(PSO)、持続性勃起症など。
<合併症>
- 塞栓後症候群: 塞栓範囲や塞栓物質により、発熱、疼痛、嘔気・嘔吐、倦怠感などが生じることがある。
- 非標的塞栓・虚血性障害: 目的外の血管や臓器への塞栓物質の流入により、臓器虚血(脳梗塞、脊髄梗塞、腸管虚血、皮膚・筋壊死など)、神経障害などが生じるリスクがある。特に液体塞栓物質の使用時は、慎重な注入とコントロールが求められる。
- 穿刺部位合併症: 血腫、仮性動脈瘤、動静脈瘻、動脈解離、感染など。
- 塞栓物質関連: アレルギー反応(金属、薬剤など)、塞栓物質の移動・逸脱。DMSO関連の合併症(血管痛、一過性の血圧変動など:EVOH製剤使用時)。NBCA使用時のカテーテル固着。
- 血管操作関連: 動脈解離、血管損傷・破裂、出血。ステントおよびデバイス留置関連合併症(血栓形成、ステント内狭窄、デバイス移動・不完全展開、母血管閉塞など:FDSやWEBデバイス使用時を含む)。
その他: 造影剤腎症、放射線皮膚障害、感染など。
参考文献
本項目に関しては、デバイスや塞栓物質の開発、適応拡大などにより状況が変わり得る。詳細な情報や最新の知見については、以下の関連学会が発行する診療ガイドラインや使用指針などを参照されたい。
- 日本IVR学会編.IVR診療ガイドライン
- 日本脳卒中学会編.脳卒中治療ガイドライン
- 頭蓋内動脈ステント(脳動脈瘤治療用 Flow Diverter)適正使用指針
- 脳神経領域における液体塞栓物質 適正使用指針
- 分岐部ワイドネック型脳動脈瘤用機器 適正使用指針
- 日本循環器学会/日本血管外科学会合同ガイドライン 末梢動脈疾患ガイドライン
- その他、関連する各領域の学会が発行するガイドライン、使用指針など