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  • TAFI(thrombin activatable fibrinolysis inhibitor)

    2025/07/01 更新
    2015/02/17 作成

    解説

    1) 分子量,半減期,血中濃度
    TAFI(thrombin activatable fibrinolysis inhibitor)は、血中では,血漿と血小板に存在し,血漿における濃度は73-275 nM(4-15 μg/mL)である。血小板のα顆粒には,血中TAFIの0.1%以下が存在し,血小板の活性化により放出され、血栓形成部位でのTAFI濃度の調節に寄与している。TAFIの活性は、阻害タンパク質による調節ではなく、体温下での不安定性によって制御されている。この不活化の速度はアイソフォームにより異なり,Thr325 TAFIの半減期は37℃で8分,Ile325では15分である。


    2) 構造と機能

    TAFIをコードするCPB2遺伝子は13q14.11に存在し、全長48 kb, 11のエキソンと10のイントロンから構成される。19の一塩基多型が報告されており,そのうち6つがコーディング領域に存在する。さらに,そのうち2つがアミノ酸の置換を伴っており,4つのTAFIアイソフォームが存在する(+50 G/A,Ala147Thr;+1040 C/T,Thr325Ile)。423アミノ酸残基からなるプレプロTAFIは,主に肝実質細胞,巨核球によって産生され,22アミノ酸残基のシグナル配列が除去された後,401アミノ酸残基からなるプロ酵素が循環血中に分泌される(図1)。トロンビン、トロンビン―トロンボモジュリン複合体、およびプラスミンはArg92-Ala93を加水分解して、活性化ペプチドを遊離させ,これにより触媒ドメインが露出して活性型TAFI(TAFIa)となる。
    線溶は,プラスミノゲンアクチベータ(PA)によるプラスミノゲンの活性化により開始される。プラスミンがフィブリンに作用すると,C末端にリジン残基が形成され,このリジン残基に,プラスミノゲンや組織型プラスミノゲンアクチベータ(tPA)が結合し,線溶反応が効率よく実行される。プラスミンはC末端リジン残基に結合して保護され,α2アンチプラスミンなどによる阻害を受けにくくなる。この活性増強システムはTAFIaによるC末端リジン残基の切断により制御され,TAFIaによって線溶活性は低下する。TAFIaによる線溶阻害には閾値が存在し,一定濃度以上のTAFIaが必要とされる。TAFIaの濃度が閾値以下であればフィブリン上のC-末端リジン残基の数は顕著に増加し,プラスミンの生成を促進することにより線溶が亢進する。TAFIaの閾値はプラスミン濃度により決定され,プラスミンの存在量が多い場合には線溶を阻害するTAFIaの閾値も高くなる。


    3) ノック・アウトマウスの表現型

    TAFI欠損マウスでは,発生,生殖など,表現型に異常は認められず,レーザー惹起血栓モデルでも線溶機能に有意な差はなかった。Batroxobin誘導肺塞栓モデルでは、TAFI欠損マウスでフィブリン沈着の減少,塩化鉄誘発血栓モデルにおいても血栓のサイズや重量の減少,血栓溶解能の増強が観察されている。TAFIによる線溶の制御は,血栓形成の刺激の種類,強度,形成された血栓の性状や形成部位によって異なることが考えられている。


    4) 病態との関わり

    健常人における血漿TAFI濃度には個人差が大きい。疫学研究では,TAFI濃度が静脈血栓症のリスクと相関することが報告されている一方で,冠動脈疾患との関連については一貫しない結果が示されている。従来の市販ELISAキットではTAFIのアイソフォームを十分に識別できず,これが研究間の結果の相違に影響している可能性が指摘されている。近年の改良された測定法を用いた解析では,TAFI濃度と脳虚血発作や冠動脈疾患との関連が認められている。さらに,血中TAFI濃度が高いCOVID-19患者では重症化しやすく,死亡率や人工呼吸管理の必要性とも関連することが報告されており,TAFIはCOVID-19における重症度や予後のマーカーとして有望であるが,その有用性を確立するには今後さらなる臨床的検証が求められる。また,TAFIの先天性機能不全により出血傾向や止血不全を呈することがある。これはPAI-1,α2-アンチプラスミン(α2-PI),トロンボモジュリン(TM)などの先天性機能異常によるものとともに「出血性線溶異常症(bleeding disorders caused by hyperfibrinolysis)」に分類される。これらは常染色体潜性遺伝形式をとり,ホモ接合体では過度の線溶促進により止血血栓が早期に溶解し,出血をきたす。ヘテロ接合体では各因子の血中濃度は低下するものの,通常は重篤な出血症状は認められない。
     

    5)その他のポイント・お役立ち情報
    TAFIは,血栓性疾患における線溶反応のみならず,C5aをはじめC3aやブラジキニンを分解し,炎症反応の制御にも関与している。また,細胞膜上のプラスミノゲン受容体に作用して組織線溶の制御にも関与している 。

    図表

    • 図 TAFIの構造

    引用文献

    1) 関 泰一郎,三浦 徳,細野 崇:メタロカルボキシダーゼTAFIの線溶抑制機能と病態生理,日本血栓止血学会誌 24:491-495, 2013.

    2) 関 泰一郎,  細野 崇:Thrombin activatable fibrinolysis inhibitor (TAFI)の構造・特徴とその測定法, 日本血栓止血学会誌 34:310-316, 2023.

    3) Aksakal A, Kiliç AF, Afşin DE, Baygutalp NK, Kerget B. Evaluation of the relationship between TAFI level and prognosis in COVID-19 patients. Eur Rev Med Pharmacol Sci. 27:764-477, 2023.

    参考文献

    1) Sillen M, Declerck PJ. Thrombin Activatable Fibrinolysis Inhibitor (TAFI): An Updated Narrative Review. Int J Mol Sci. 22: 3670, 2021.

    2)Wyseure T, Yang T, Zhou JY, Cooke EJ, Wanko B, Olmer M, Agashe R, Morodomi Y, Behrendt N, Lotz M, Morser J, von Drygalski A, Mosnier LO. TAFI deficiency causes maladaptive vascular remodeling after hemophilic joint bleeding. JCI Insight. 4: e128379, 2019.

    3) Foley JH, Kim PY, Mutch NJ, Gils A: Insights into thrombin activatable fibrinolysis inhibitor function and regulation. J Thromb Haemost 11 Suppl 1: 306-315, 2013.

    4) Morser J, Gabazza EC, Myles T, Leung LL: What has been learnt from the thrombin-activatable fibrinolysis inhibitor-deficient mouse? J Thromb Haemost 8: 868-876, 2010.

    5)一瀬白帝編,図説 血栓・止血・血管学 血栓症制圧のために.東京、中外医学社,2005,614-619.