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  • 呼吸器疾患と線溶

    2015/02/17 作成

    解説

     病因と病態を異にする多種多様な疾患において呼吸器系の障害が認められるが,その中には,気管支喘息,間質性肺疾患,慢性閉塞性肺疾患,肺癌,急性呼吸促迫症候群,睡眠時無呼吸症候群,肺高血圧症など,線溶ならびに線溶抑制因子の病態への強い関与が知られる疾患も含まれている.本項では,知見の蓄積の多い気管支喘息と間質性肺炎に絞って,これらの疾患への線溶ならびに線溶抑制因子の関与について解説する.

    気管支喘息
     気管支喘息とは,気道の慢性炎症と気道過敏性の亢進を認める気道閉塞性呼吸器疾患と定義される.持続する気道炎症は,気道傷害とそれに引き続く気道構造の変化(リモデリング)を惹起する.この気道の過敏性やリモデリングに,ウロキナーゼ型プラスミノゲンアクチベータ(uPA)ウロキナーゼ型プラスミノゲンアクチベータ受容体(uPAR)組織型プラスミノゲンアクチベータ(tPA)やプラスミノゲンアクチベータインヒビター1(PAI-1)が病態に関与することが知れられており,その知見は以下のようにまとめられる.


    1)気管支喘息動物モデルにおける検討

    ・uPAやtPAの吸入は気道過敏性及び気道リモデリングの程度を減弱する.
    ・PAI-1ノックアウトマウスあるいは気道PAI-1のノックダウンされたマウスでは,気道過敏性及び気道リモデリングの程度が軽減される.
    PAI-1阻害薬の投与により気道過敏性及び気道リモデリングの程度が軽減される.


    2)気管支喘息患者における検討

    ・気道においてuPA及びuPARの発現亢進が認められる.
    ・uPARあるいはPAI-1遺伝子には疾患感受性に関連する多型の存在が認められる.
    ・血中のuPARあるいはPAI-1濃度は気道閉塞の程度と相関する

    3)気管支喘息における線溶の関わり
     気管支喘息の病態に線溶系因子,線溶抑制因子がどのように関わっているのかについてはすべてが明らかにされたわけではないが,以下の機序の存在が推察されている.
    ・PAI-1の過剰発現による線溶の抑制によって気道にフィブリンが沈着し,これが気道過敏性の亢進,ひいては気道リモデリングを引き起こす
    ・PAI-1の過剰発現による線溶の抑制によって,プラスミンとマトリックスメタロプロテアーゼの活性低下が引き起こされ,気道への細胞外マトリックスの沈着が促進する.

    間質性肺疾患
     間質性肺疾患とは,肺の間質に炎症や線維化をきたす疾患の総称である.中でも,特発性肺線維症は,現在有効な治療法が見出されていない難治性呼吸器疾患の代表である.間質性肺疾患,特に肺線維症において,プラスミノゲン,uPA,tPAやPAI-1が病態に関与することは知られており,その知見は以下のようにまとめられる.


    1)肺線維症動物モデルにおける検討

    ・プラスミンゲンあるいはtPAノックアウトマウスでは肺線維症の程度の増悪,PAI-1ノックアウトマウスやPAI-1をノックダウンされたマウスではその軽減が認められる.
    PAI-1阻害薬の投与は肺線維症の程度を軽減する.


    2)間質性肺疾患患者における検討

    ・サルコイドーシス,珪肺,特発性肺線維症患者の気管支肺胞洗浄液中のuPA活性の低下,PAI-1レベルの上昇が認められる.
    ・特発性肺線維症患者の線維化部位ではPAI-1発現の亢進が認められる.
    ・PAI-1遺伝子には特発性間質性肺炎の疾患感受性と相関する多型が認められる. 

    3)肺線維症における線溶の関わり
     肺線維症において線溶は抑制されており,それが線維化を促進することは明らかとなっている.非常に多くの機序が提案されているが,その中で最も受け入れられているものを図に示す.

    図表

    • 線維症とPAI-1の関わり(文献3より引用)

    参考文献

    1) 服部登:線溶系と線溶系抑制機構の呼吸器疾患における役割,呼吸 32:691-696,2013.
    2) Schuliga M, Westall G, Xia Y, Stewart AG: The plasminogen activation system: new targets in lung inflammation and remodeling. Curr Opin Pharmacol 13: 386393, 2013.
    3) Ghosh AK, Vaughan DE: PAI-1 in tissue fibrosis. J Cell Physiol 227: 493507, 2012.