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トロンビン形成試験(TGT) thrombin generation test(TGT)
解説
1)トロンビン形成試験とは
トロンビン形成試験(thrombin generation test; TGT)はトロンビン生成試験、トロンビン生成能試験とも呼ばれ、フィブリン形成における前段階のトロンビン生成をリアルタイムに定量化し包括的な凝固機能を評価する測定系である。古くには、1986年にHemkerらがトロンビンの合成基質を用いて単位時間あたりのトロンビンの生成量を評価している。その後にHemkerらの方法をもとに改良がなされ、近年では蛍光基質を用いたCalibrated automated thrombogram(CAT)と呼ばれる自動測定システムにより多検体の測定が可能になった。フィブリン析出までの時間を測定するプロトロンビン時間(PT)や活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)と異なり、単位時間あたりのトロンビン生成量を定量的に評価するため、PT、APTTと比較して凝固反応のより詳細を把握することが可能である。また、乏血小板血漿(PPP)だけでなく、多血小板血漿(PRP)を用いて生理的に近い条件下でも評価可能である。
2)原理と方法
TGTによる凝固反応は細胞基盤凝固機序に基づく。組織因子(TF)/活性化凝固第VII因子(FVIIa)トリガーで凝固反応が開始され、凝固反応が進むことで生じたトロンビンの活性を合成基質または蛍光基質を用いてシグナルとして検出する。得られたシグナルを微分して波形として表すことで、凝固反応の過程における経時的なトロンビン生成量を評価する。波形が立ち上がるまでの時間(Lag time)、ピークに達するまでの時間(tt-peak)、ピークの値(Peak Th)、総トロンビン生成量(ETP)のパラメータを定量的に解析することができる(図)。
3)異常値を示す病態
血友病ではFXase複合体形成が抑制されるためPeak Thの低下、tt-peakの延長を認める。プロトロンビナーゼ複合体が抑制される凝固第V因子(FV)および凝固第X因子(FX)欠乏血漿ではLag timeの延長およびPeak Thの低下を認める。また、TGTを用いて抗凝固薬が凝固反応に与える影響も検討されており、直接型経口抗凝固薬(DOAC)では濃度依存的にLag timeの延長およびPeak Thの低下が認められる。また、トロンビン阻害薬と凝固第Xa因子阻害薬で傾向が異なる。
4)測定のポイント各種疾患における患者個々の凝固機能特性を評価できるため、止血治療製剤や抗凝固療法などのモニタリングに有用である。本測定系の測定試薬は複数存在するが、十分に標準化されていないため、試薬によって値が異なる。特に、トリガー試薬中のTF濃度によってパラメータが大きく変動するため、測定試薬の使用時は目的に応じたTF濃度の試薬を用いているかを確認する必要がある。なお、出血傾向を評価する場合はTF 0.4~2 pM(終濃度)、血栓傾向を評価する場合はTF 5~40 pM、抗凝固薬の阻害作用の評価ではTF 20~50 pMを目安として実施することで報告があるものの、他の測定条件にも依存するため、評価目的、条件、検体に応じて検討することが望ましい。
図表
正常血漿と血友病A血漿のTGT
参考文献
1) 松本智子,野上恵嗣. T-TASとトロンビン生成試験(TGT)の基本と臨床,日検血会誌 14(3):365-372,2013.
2) Hemker HC, Willems GM, Béguin S. A computer assisted method to obtain the prothrombin activation velocity in whole plasma independent of thrombin decay processes. Thromb Haemost, 56(1): 9-17, 1986.
3) Artang R, Anderson M, Riley P, Nielsen JD. Assessment of the effect of direct oral anticoagulants dabigatran, rivaroxaban, and apixaban in healthy male volunteers using a thrombin generation assay. Res Pract Thromb Haemost, 1(2):194-201, 2017.
4) Depasse F, Binder NB, Mueller J, Wissel T, Schwers S, Germer M, Hermes B, Turecek PL. Thrombin generation assays are versatile tools in blood coagulation analysis: A review of technical features, and applications from research to laboratory routine. J Thromb Haemost, 19(12):2907-2917, 2021.