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IgA血管炎 IgA vasculitis
解説
1)病態・病因
かつてはHenoch-Schönlein 紫斑病と呼ばれていたが、IgA血管炎に病名変更された(Chapel Hill 分類2012)。IgA1有意の免疫複合体性血管炎が全身性の小血管(毛細血管、細静脈、細動脈)に起こることが原因と考えられる非血小板減少性紫斑病である。上気道感染後に発症する例が約半数にあり、なんらかの感染症(A群β溶血性連鎖球菌、パルボウイルスB19、アデノウイルス、EBウイルス、水痘ウイルス、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)などが契機になっている可能性があるが、原因の特定は困難な場合が多い。成人では薬剤や毒素の関与がいわれている。
2) 疫学
小児で最も多い一次性血管炎で、好発年齢は3~10歳で、やや男児に多い。成人では稀だが、小児よりも腎病変の頻度が高く重症化しやすい傾向にあるため注意が必要である。
3)検査と診断
本症を確定するための特殊な検査はない。全例に紫斑が出現するが、関節炎(75%)や腹痛(65%)は一部の症例では認められない。紫斑はややもりあがった出血斑が下肢伸側、臀部などに対称性に出現するが、時に上肢、躯幹、顔面にもみられることがある。皮膚症状が初発症状であることが多いが、関節症状や消化器症状が先行することがあり、診断に苦慮する場合がある。関節症状は足関節、膝関節に多いが、一過性であり関節の変形を残すことはない。腹部症状は疝痛様でしばしば嘔吐を伴う。急激に腹痛が増強する場合や血便がある場合は腸重積、腸管穿孔などの合併に注意が必要である。20~60%に腎病変の合併がみられる(紫斑病性腎炎)。通常、紫斑病発症から3か月以内に尿異常所見が明らかになることが多いが、6か月以上してから出現することもある。
4)治療の実際
自然軽快する例が多く、安静を保ち経過観察を行う。症状の持続期間は平均4週間であるが、約1/3の症例が再燃する。関節痛や腹痛が強い症例にはコルチコステロイドの投与(1~2 mg/kg/日、1~2週間)が有効である。しかし、ステロイドの投与は紫斑の短縮、再燃の予防、慢性腎疾患の予防には効果がない。腹痛が持続する患児で、凝固第XIII因子が低下している場合には、凝固第XIII因子の補充を行う。紫斑病性腎炎に対する治療法としては、重症例でレニン–アンジオテンシン系阻害薬、免疫抑制薬(シクロホスファミド、ミコフェノール酸モフェチル)やリツキシマブの有効性を示唆する報告もあるが、エビデンスは十分とは言えず、治療選択は慎重に検討する必要がある。
5)その他のポイント・お役立ち情報
予後は一般的に良好であるが、長期予後は腎合併症の程度により、1~3%が末期腎不全に至るといわれている。腎炎症候群や高度タンパク尿を呈する症例では、早期に腎生検を行い、積極的に治療をする必要がある。近年ではIgA腎症と同様に、ガレクチン3やバイオマーカーを用いた腎予後予測研究も進んでいる。
参考文献
1) Fervenza FC: Schoenlein-Henoch purpura nephritis. Int J Dermatol 42: 170-177, 2003
2) Jennette JC, et al: 2012 revised International Chapel Hill Consensus Conference Nomen clature of Vasculitides. Arthritis Rheum 65: 1―11, 2013.