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凝固第IX因子(FIX) coagulation factor IX
解説
1) 分子量,半減期,血中濃度
血液凝固第IX因子(FIX)は肝臓で合成される分子量57,000のビタミンK依存性凝固因子で、血中半減期は18~24時間、血中濃度は3~5μg/mLとされる。
2) 構造と機能
ヒトFIX遺伝子(F9)はX染色体(Xq27.1-27.2)上に座位し、全長約34kb、8個のエクソンと7個のイントロンより構成される。約2.8 kbのmRNAには、29bpの短い5’側ノンコーディング領域、46個のアミノ酸残基からなるプレプロリーダー領域と415個のアミノ酸残基の成熟FIXをコードする領域、さらに1.4kbの長い3’側ノンコーディング領域が存在する(図1)。
FIXはNH2末端から順に、肝細胞からの分泌過程に必須なシグナルペプチド、γ-カルボキシラーゼによって認識されるプロペプチド、正常なタンパク質折り畳みとCa2+結合に必要な12個のγ-カルボキシグルタミン酸(Gla)残基を含むGlaドメイン、Ca2+の高親和性結合に重要なEGFドメイン2個、活性化凝固第VII因子(FVIIa)/組織因子複合体あるいは活性化凝固第XI因子(FXIa)により2カ所で切断される活性化ペプチド、His267、Asp315、Ser411で構成される活性基を含むセリンプロテアーゼドメインから成る(図1)。
FIXはCa2+存在下においてFVIIa/組織因子複合体あるいはFXIaにより活性化第IX因子(FIXa)へと活性化される。FIXaはリン脂質上で活性化第VIII因子(FVIIIa)とともに内因系第X因子(FX)活性化複合体(Xase complex)を構成しFXを活性化するが、FIX欠乏やアミノ酸置換によるFIX分子異常は凝固反応効率を著しく低下させる。
3) ノック・アウトマウスの表現型
FIX遺伝子ノックアウトマウス(ヘミ接合型オス)の表現型は、同腹野生型オスやヘテロ接合型メスに比べてTail-cut出血時間の著しい延長がみられる。出血時間検討のためTail-cutしたノックアウトマウス9匹中7匹が出血死、出生時臍帯出血死も2匹にみられたと報告されている。一方、ノックアウトマウスは(ヘテロ接合型メスも)肝臓に病理学的異常所見は全くなく、メンデルの法則に従った変異遺伝子伝播を示す。
4) 病態との関わり
ヒトX染色体上のFIX遺伝子に異常がある血友病Bは伴性劣性遺伝形式を示し、通常男児にみられ、幼少時から関節・筋肉内出血など様々な出血症状を示す。一般に女性血友病B保因者は、X染色体の遺伝子量補償機構により2本のX染色体のうち片方がランダムに不活性化されて血中FIX活性が約50%となり、出血傾向を示さない。
5) その他のポイント・お役立ち情報
「王家の病気」と呼ばれた英国ビクトリア女王の家系にみられた血友病は、遺伝子解析の結果(c.278-3A>G: p.Asp93Glufs*12)から血友病Bであることが判明している。
図表
参考文献
1) 村田萌ら:血友病Bの分子生物学,白幡聡編,みんなに役立つ・血友病の基礎と臨床・改訂版.東京,医歯ジャーナル社,2012,51-58.
2) OMIM #306900, HEMOPHILIA B http://omim.org/entry/306900