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  • 後天性フォン・ヴィレブランド病(VWD) acquired von Willebrand disease

    2025/10/23 更新
    2015/02/17 作成

    解説

    1) 病態・病因

    von Willebrand因子(VWF)の後天的に生じた量的あるいは質的異常による止血異常症は後天性 von Willebrand症候群(Acquired von Willebrand syndrome:AVWS)と呼ばれる(日本血栓止血学会、「フォンヴィレブランド病治療ガイドライン」参照)。リンパ増殖性疾患(その中ではmonoclonal gammopathy of undetermined significance (MGUS)が多い)、骨髄増殖性疾患(本態性血小板血症が多い)、自己免疫性疾患、悪性腫瘍、さらに甲状腺機能低下症や薬剤の副作用として生ずることがある。

    VWFは巨大な多量体として産生され、ずり応力依存的にADAMTS13によって切断され、血液中には80分子以下で構成される多量体として存在し、止血機能には高分子量領域の多量体が重要である。大動脈弁狭窄症や僧帽弁閉鎖不全などの循環器疾患やECMOや植込み型左室補助(人工心臓・LVAD)等の機械的補助循環治療中にそのポンプ内に、高度のずり応力が生じ、高分子量領域のVWF多量体が減少する。そして、ECMOやIMPELLA(いわゆる経カテーテルの補助人工心臓)治療時には出血、特に穿刺部からの出血が多く、また大動脈弁狭窄症や植込み型左室補助の慢性期には消化管出血が多い。大動脈弁狭窄症と消化管出血の合併はHeyde症候群と呼ばれるが、典型的には消化管粘膜に発生した易出血性異常血管である‘血管異形成’が出血源である。

    2) 疫学

    循環器疾患に随伴するもの以外の発症はまれである。循環器疾患に合併するものは、ずり応力依存的なVWF高分子量多量体の分解亢進およびそのためのVWF高分子量多量体の減少がほぼ必発するので多い。

    3) 症状、検査と診断

    一般的にVWFの異常による症状は、皮膚・粘膜の出血である。血流中の高ずり応力を伴う循環器疾患では、ECMOやIMPELLA留置中は大血管に穿刺部位があり、穿刺部位からの出血が生じ、輸血を必要とすることが多い。大動脈弁狭窄症や植込型LVAD留置時には、特に消化管出血が多い。

    後天性 von Willebrand症候群の検査・診断も概ね遺伝性von Willebrandの診断に準じ、VWF抗原量(VWF:Ag)、VWF活性(VWF:RCo)、VWF:RCo /VWF:Ag比の低下、VWF多量体解析(非還元条件下のVWFウェスタンブロッティング)で高分子量領域の多量体の減少を評価して診断する。

    循環器疾患随伴するAVWS以外のAVWSでは、VWF抗原量およびVWF活性が低下する場合が多い。一方、循環器疾患随伴するAVWSでは、VWF多量体解析で評価・診断されることが多い。重症大動脈弁狭窄症や僧帽弁閉鎖不全では、VWF高分子量領域の多量体の減少は軽度であり、ECMOやLVAD等の機械的補助循環治療中ではその減少は非常に高度である。

    上記の弁膜症でも、機械的補助循環治療中にVWF:Agが150-250%(正常値100%)と相当増加していることが多い。そのため、VWF:RCo /VWF:Agが低下していたとしても、VWF:RCoは100%を超す場合が多い。検査室で測定するVWF活性(VWF:RCo)は正常域であることが多い。また、循環器疾患に随伴するAVWS診断には、VWF多量体解析と比べて、VWF:RCo/VWF:Ag比は感度が低く、大動脈弁狭窄症等の弁膜症では、VWF多量体解析でVWF高分子量多量体が減少していても、VWF:RCo /VWF:Ag比が0.7以上になっていることが多い。機械的補助循環治療中ではVWF:RCo /VWF:Ag比は十分に診断的価値を持つであろう。

    重症大動脈弁狭窄症と僧帽弁閉鎖不全では、同程度のVWF高分子量領域の多量体の減少が認められるが、大動脈弁狭窄症では、貧血や消化管出血がしばしば認められるが、僧帽弁閉鎖不全では一般的ではない。出血源となる消化管血管異形成の出現頻度の違いによる可能性がある。

    4) 治療

    AVWSは、原疾患に随伴して二次性に生じる病態であり、治療の基本は、原疾患の治療である。出血時の補充療法は有効なこともあるだろうが、機械的補助循環治療時などでは、VWF多量体の分解を亢進させる器具が血流中にある中での補充であることに留意する必要がある。その有効性に関してはデータがない。

    また、重症大動脈弁狭窄症や植込型LVAD留置例での消化管出血に際しては、多くの場合、消化管血管異形成が出血源となり、その病態理解が重要である。重症大動脈弁狭窄症50例の術前に全消化管内視鏡のスタディを行った知見では、1)94%の症例が一人平均約10個の血管異形成病変を持ち、2)70%の症例が小腸に血管異形成を有しており(小腸は評価すべきか)、3)10%の症例が、症状なく血管異形成から自然出血していた(大動脈弁狭窄症症例の多くが貧血を呈するが、その原因の可能性あり)、4)そして、大動脈弁の治療数ヶ月後には、多くの血管異形成病変が消退あるいは縮小していた(重症大動脈弁狭窄症症例が一度消化管出血を起こすと、再発を繰り返すことが多いが、大動脈弁の治療をすれば、消化管出血は起こさなくなることが多い。血管異形成病変が消退・縮小が大きく寄与している可能性がある。)

    参考文献

    (1)Takiguchi, et al (2024) Mitral regurgitation is associated with similar loss of von Willebrand factor large multimers, but less anemia as compared to aortic stenosis. Res Prac Thromb Haemost 8(4):102431

    (2)Okubo, et al (2024) VWF:RCo/VWF:Ag for diagnosis of acquired von Willebrand syndrome caused by aortic stenosis Res Prac Thromb Haemost 2024;8:e102284

    (3)Yashige, et al(2023)Assessment of gastrointestinal angiodysplasia before and after treatment of severe aortic stenosis. N Engl J Med, 389, 1530-1532