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後天性フォン・ヴィレブランド病(VWD) acquired von Willebrand disease
解説
概要
後天性フォン・ヴィレブランド病(VWD)は、既往歴、家族歴に出血性素因がなく、基礎疾患にともなって先天性VWDに類似した病態をとる比較的稀な後天性凝固異常症である。基礎疾患は、リンパ増殖性疾患、自己免疫疾患、骨髄増殖性疾患、心血管疾患、悪性腫瘍、甲状腺機能低下症など多岐にわたる。また、高度の大動脈狭窄例の約20%で皮膚や粘膜からの出血症状がみられ、特に消化管出血では治療に難渋することが知られており、Heyde症候群といわれている。出血症状は軽微なことが多いが、Heyde症候群など重篤な出血症状を呈することがあり、適切な治療が必要である。本症の認識度があがることにより、症例は増えてくるものと思われる。
疫学
これまでに全世界で400例余りの報告しかなく、比較的稀な疾患と考えられている。しかし、出血症状は軽微なこと、基礎疾患の治療が奏功するとその病態も改善することから多くの症例が見逃されてきている。高齢化にともない大動脈弁狭窄など心血管系の基礎疾患が増加傾向にある。
検査と診断
フォン・ヴィレブランド因子(VWF)活性の低下により診断されるが、さらにVWF関連抗原、第VIII因子凝固活性、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)、出血時間などを検討する。さらに、VWFマルチマー解析を行なうことが望ましいが、VWF関連抗原VWF活性比にて病型が診断できる。甲状腺機能低下症では、type 1であり、その他の基礎疾患ではtype 2が圧倒的に多い。また、リンパ増殖性疾患や自己免疫疾患ではインヒビターの存在を疑い、交差混合試験(クロスミキシング試験)にてVWF活性阻害の有無、ELISAにてVWFに対する抗体の存在を検討する。インヒビター陽性例では、出血症状が重篤化しやすい。
治療の実際
基礎疾患に対する治療が奏功すると病態は改善するため、基礎疾患の治療が第一である。基礎疾患の治療が有効でない時には、酢酸デスモプレシン(DDAVP)が30%の症例で有効であり第一選択薬とする。しかし、先天性VWDに比較して効果が十分にみられないことがある。第一選択薬で治療効果がなく、インヒビター陽性あるいはIgG単クローン性グロブリン血症では、大量グロブリン輸注療法(グロブリン製剤0.4~1g/kg2~4日間)が有効で、その治療効果は2~3週間持続する。IgM単クローン性グロブリン血症では大量グロブリン療法は無効である。前述の治療が有効でない場合には、VWF含有凝固第VIII因子製剤(50~100 IU/kg)にて止血管理をおこなう。また、これらの治療が単独では十分な治療効果がえられなくても、これらを機見合わせることにより止血効果がえられることがある。自己抗体陽性例では、出血症状が多くみられ治療に難渋した際には、リツキシマブの投与も今後検討するべき課題である。
その他のポイント・お役立ち情報
基礎疾患を理解し、本症の存在を常に念頭に入れて診療を行なうことが重要である。また、APTTの軽度延長することが多く、基礎疾患があって原因不明のAPTT延長がある場合には、本症を疑って検索することが大切である。Heyde症候群における消化管出血の機序は、VWFには血管新生抑制作用があり、その欠損により異常な血管新生がおこる可能性が考えられている。しかし、VWFを補充しても血管新生を抑制することがないため、止血治療は困難と考えられている。
引用文献
1) 毛利博:後天性von Willebrand症候群,別冊日本臨床 新領域別症候群シリーズ No.22 血液症候群(第2版)-その他の血液疾患を含めて- Ⅱ.2013,620-623.
2) 毛利博:後天性フォン・ヴィルブランド症候群-その病態,診断および治療について-,臨床血液42:525-536,2001.
参考文献
1) 毛利博:後天性von Willebrand症候群,別冊日本臨床 新領域別症候群シリーズ No.22 血液症候群(第2版)-その他の血液疾患を含めて- Ⅱ.2013,620-623.
2) 毛利博:後天性フォン・ウヴィルブランド症候群-その病態,診断および治療について-,臨床血液42:525-536,2001.