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プロテインS/TAM受容体 protein S/TAM receptors
解説
【概要】
Tyro3, Axl, Merレセプターチロシンキナーゼファミリー(TAMRs)は,プロテインS (PS)およびgrowth-arrest-specific 6 (Gas 6)を主なリガンドとする受容体型チロシンキナーゼである.近年,PS/Gas 6とTAMRsの相互作用を介した多彩な生理作用が明らかになりつつある.プロテインSについては,別項「プロテインS」に記載されているので,この項ではTAM受容体を中心に記載する.
【分子量,半減期,血中濃度】
翻訳後修飾を経た後の分子量は,Tyro3およびAxlが100~140kDa,Merが165~205kDaである.TAMRsは細胞膜貫通型タンパク質であり,血中に存在するのはTAMRsの細胞外ドメインが逸脱した可溶型タンパク質(sTyro3, sAxl, sMer)である.その生理的および病的意義は明らかではなく,正常血中濃度や半減期についても詳細な報告はない.
【構造と機能】
TAMRsは,N末端側から2個の免疫グロブリン様ドメインおよび2個のフィブロネクチンIII型ドメインが直列に連なった細胞外ドメインと,チロシンキナーゼ活性を有する細胞内ドメインよりなる.結合の際には,レセプターとリガンドがともに,2つの分子が会合したヘテロダイマーを形成する(図).Gas6がAxlと高い親和性を有するのに対し,PSはTyro3およびMerとの親和性が高い1).
TAMRsのすべてをノックアウトしたトリプルノックアウトマウスは正常に出生するものの,発育にともない,精巣や網膜を中心とした死細胞の蓄積とともに,全身性エリテマトーデス(SLE)様の炎症亢進状態や自己抗体産生をきたす2).これらは生体内における死細胞除去機構の破綻によるものと考えられ,TAMRsがこの機構において重要な役割を担うことが示唆される.3種類のレセプターを個別にノックアウトしたマウスの表現形から,Tyro3は脳・神経組織の保護,Axlは血管・脈管形成,Merは免疫調節に特に重要であると考えられている3).
【病態との関わり】
SLEにおける自己免疫性の亢進は,生体内におけるPS/Merを介した死細胞除去の遅延が一因であると考えられている.その他,PS/TAMRと血小板血栓の安定化,アテローム硬化性病変の進展,がんの進展との関連も示唆されている.
【その他のポイント,お役立ち情報】
Tyro3はかつてBrt, Dtk, Rse, Sky, Tifなどとも呼ばれていた.同様にAxlはArk, Tyro7, Ufo, MerはEyk, Nym, Tyro12などとも呼ばれていた.現在はTyro3, Axl, Merに呼称が統一されている.
図表
参考文献
1) Lemke G, Rothlin CV: Immunobiology of the TAM receptors. Nat Rev Immunol 8: 327
2) Lu Q, Lemke G: Homeostatic regulation of the immune system by receptor tyrosine kinases of the Tyro 3 family. Science 293: 306
3) van der Meer JH, van der Poll T, van ‘t Veer C: TAM receptors, Gas6, and protein S: roles in inflammation and hemostasis. Blood 123: 2460