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  • α2マクログロブリン(α2M) α2 macroglobulin(α2M)

    2025/05/01 更新
    2015/02/17 作成

    解説

    1)分子量,血中濃度
    α2
    マクログロブリン(α2M)は、主に肝臓で合成される分子量726,000の糖タンパク質で、血漿中に2-4 mg/mlの濃度で存在する。 

    2)構造と機能
    α2M
    は、1451アミノ酸残基からなる単量体がジスルフィド結合によりホモダイマーを形成し、このホモダイマーがさらに非共有結合により会合したホモテトラマーである。合計5804アミノ酸残基からなり、分子内には13個のジスルフィド結合を有する。単量体の600-700残基付近は「ベイト(bait、餌)領域」と呼ばれ、セリンプロテアーゼをはじめほとんどすべてのプロテアーゼによって分解を受けやすい構造である。ベイト領域近傍には、トランスグルタミナーゼ反応領域が存在する。また、各々のサブユニットのC末端138残基には、受容体結合部位が存在する。この部位は、プロテアーゼとの結合による立体構造の変化により露出し、α2Mレセプターに結合してインターナリゼーションを受けるが、α2M単体には受容体結合能はない。α2Mは金属タンパク質であり、血漿中の主要な亜鉛結合タンパク質である。亜鉛結合の有無は、プロテアーゼ阻害活性には影響を及ぼさないが、インターロイキン(IL-1βとの結合には亜鉛結合は必須である。
    α2M
    は、ほとんどすべてのプロテアーゼ活性阻害作用を示し、ホルモンやサイトカイン結合活性も示し、それらのキャリアとして機能する。トロンビンやプラスミンに対しても活性中心以外の部位で結合し、立体障害によりその活性を抑制するが、アンチトロンビンα2アンチプラスミンと比較するとその阻害効果は低いものと考えられる。

    3)ノック・アウトマウスの表現型
    α2M-/-
    マウスは、妊娠、出産、成長、外見など、野生型マウスと差がない。α2M-/-マウスに、コリン・メチオニン欠乏、エチオニン添加食を給餌して誘導した急性膵炎モデルでは、野生型の死亡率は25%であったのに対して、α2M-/-マウスの死亡率は70%であった。これらの研究から、α2Mは急性膵炎において、プロテアーゼインヒビターとしての機能に加えて、腫瘍壊死因子αTNF-α)、IL-1-6などの各種サイトカインのキャリアーとして機能することが明らかになった。

    4)病態との関わり
    ネフローゼ、肝疾患、糖尿病で増加する。一方、肝機能障害、播種性血管内凝固(DIC)、前立腺癌、急性膵炎、線溶亢進、関節リウマチなどで減少する。

    5)凝固反応に与える影響
    α2Mが凝固反応に与える影響としてトロンビン生成能試験における影響が詳細に検討されている。トロンビン生成能試験は、組織因子(tissue factor; TF)およびリン脂質をトリガーとして外因系凝固反応を惹起し、生じたトロンビンの活性を蛍光基質などにより検出する方法である。トロンビン生成能試験で、生じたトロンビンは速やかにアンチトロンビンまたはα2Mと結合する。このとき、アンチトロンビンと結合したトロンビンは不活化されて活性を有さないが、α2Mと結合したトロンビンは活性を継続して有し、基質を分解する。このため、トロンビン生成能試験では、トロンビンとα2Mの複合体が継続して活性を有するため、その影響を考慮してデータを解釈する必要がある。

    6)その他のポイント・お役立ち情報
    α2M
    は、炎症性サイトカインに加えて、PDGFplatelet-derived growth factor)、神経成長因子(NGF)などの増殖因子、鉄代謝に関与するヘプシジン(hepcidine)、食欲、体重の調節に関与するレプチン(leptin)などのホルモンを結合し、これらの活性や機能を制御している。

    引用文献

    1) Rehman AA, Ahsan H, Khan FH: α-2-Macroglobulin: a physiological guardian. J Cell Physiol 228: 1665-1675, 2013.
    2) Umans L, Serneels L, Overbergh L, Stas L, Van Leuven F: alpha2-macroglobulin- and murinoglobulin-1- deficient mice. A mouse model for acute pancreatitis. Am J Pathol 155: 983-993, 1999.

    参考文献

    1) 上村晃一郎,水口純,中垣智弘:α2マクログロブリンの欠損マウス.日本血栓止血学会誌 9(1),78-80,1998.

    2Baglin T. The measurement and application of thrombin generation. Br J Haematol 130: 653-61, 2005.