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  • フィブリノゲン製剤 fibrinogen concentrate

    2025/04/21 更新
    2015/02/17 作成

    解説

    1. 生物学的製剤基準

    乾燥人フィブリノゲン 商品名:フィブリノゲンHT静注用1gJB

    本剤は献血で得られた血液の血漿を原料として、Cohnの低温エタノール分画で得られた画分からクリオ化、吸着、沈殿、病原体不活化沈殿、透析、ろ過、凍結乾燥の工程を経てフィブリノゲンを濃縮精製した血漿分画製剤である。

    製造工程においてウイルス除去膜によるろ過処理、凍結乾燥の後、80℃、72時間の加熱処理を施しているが、ヒトパルボウイルスB19等のウイルスを完全に不活化・除去することは困難であるとされている。

    添付の50 mL注射用水に本剤1 gを溶解し、静脈内に投与する。

    2. 適応

    • 先天性低フィブリノゲン血症の出血傾向

    通常は1回に3 gを用いるが、年齢、症状により適宜増減する。

    • 産科危機的出血に伴う後天性低フィブリノゲン血症に対するフィブリノゲンの補充

    本剤投与直前の血中フィブリノゲン値を必ず測定し、結果を確認した上で投与を開始する。後天性低フィブリノゲン血症とは150 mg/dLを下回る状態であることに留意する。通常は1回3 gを静脈内投与するが、投与後に低フィブリノゲン血症が改善されない場合には、同量を追加投与する。ただし、出血症状が改善されない場合の追加投与の適否は、フィブリノゲン以外の因子の出血への関与の可能性も考慮して慎重に判断し、本剤を漫然と投与しないよう注意する。

    3. 副作用‧禁忌

    1)アナフィラキシーショック

    本剤の投与にてアナフィラキシーショックを呈した患者には使用してはならない。もし蕁麻疹、発疹、血圧低下、呼吸困難、発熱などのアナフィラキシー様症状が現れた場合には直ちに使用を中止し、適切な措置をとること。

    2)血栓塞栓症

    明らかな血栓症や心筋梗塞などの患者には投与しないこと。

    4. フィブリノゲンの生理学的特徴

    フィブリノゲンは肝臓で産生される340-kDaの血漿蛋白で、トロンビンだけでなくプラスミンや凝固第XIII因子の基質でもあり、血中半減期は3~5日である。凝固カスケード反応により最終的に生成されたトロンビンがフィブリノゲンを加水分解してフィブリンを形成した後、活性化第XIII因子の重合反応により安定化フィブリンが形成される。血中フィブリノゲン濃度の正常範囲は200400 mg/dLと広いが、急性期反応物質でもあるので炎症時には高値を示す。また、妊娠後期にも正常範囲を超えて高値を示すことが多い。一方、L-アスパラギナーゼ等の抗がん剤投与後に、肝臓での産生障害によって低値を示すことも知られている。血中フィブリノゲンの止血可能限界値は従来100 mg/dLとされてきたが、最近では150 mg/dLにすべきとされている。フィブリノゲンは凝固反応系の最後の原料となる蛋白であり、他に代償できる因子がない。つまり、他の凝固因子が十分にあってもフィブリノゲンが足りなければ最終的に止血栓が形成されず、止血不全をまねく。また、フィブリノゲンは血小板が機能(凝集)するために必須の蛋白であるため、血小板数が維持されていても血中フィブリノゲン値が止血可能域を下回っていると止血不全を呈する。さらに、フィブリノゲンは大量出血時において真っ先に止血可能閾値を下回る凝固因子であり、その血中濃度を維持することは止血のために不可欠である。

    5. 投与効果

    高度な後天性低フィブリノゲン血症を招来する原因には、産科危機的出血、心臓血管外科手術、重症外傷などがあり、血中フィブリノゲン濃度は100~150 mg/dLを下回ることがしばしばある。従来、フィブリノゲンの補充には新鮮凍結血漿(以下、FFP)が投与されてきたが、FFPはフィブリノゲン含有濃度が低いため、高度に低下した血中フィブリノゲン濃度をすみやかに上昇させることが難しい。本剤はFFP1012倍(2 g/dL)にフィブリノゲンが濃縮されており、体重1 kgあたり50 mgの投与によって約100 mg/dLの血中フィブリノゲン濃度上昇が期待される。産科危機的出血や手術中の大量出血など、出血性のDIC(播種性血管内凝固)とされてきた様々な病態における止血不全の本態は、高度な低フィブリノゲン血症であることが明らかとなってきており、本剤の投与は止血を達成するために極めて有効である。

    6. 溶解時の注意

    溶解時は添付の溶解液を3537℃で温めた後、フィブリノゲン製剤に注入してゆっくりと泡立てずに振盪し、完全に溶解させる。高温の溶剤を用いてフィブリノゲンを溶解すると蛋白変性を起こす可能性があるため、決して37℃を超えて加温してはいけない。溶解後は輸血セットを用いて速やかに投与すること。

    参考文献

    1. 真木正博他:基礎と臨床273803-38141993
    2. 髙松純樹監修,山本晃士編:図解臨床輸血ガイド(イラストで分かる,輸血の基本戦略).東京,文光堂,2011
    3. 山本晃士著:POCTを活用した実践的治療~輸血による止血戦略とそのエビデンス.京都,金芳堂,2016
    4. 山本晃士:日本輸血細胞治療学会誌67559-5662021
    5. 朝倉栄策編:臨床に直結する血栓止血学改訂3版.東京,中外医学社:616-6192024